このページの要点
- 業務委託のスタッフはそのままでは労災の対象外。特別加入や傷害保険の加入を申告・証明させる条を置く。
- 「労災を主張しない」と書くより、どの保険で備えるかを具体的に書くほうが実用的。
- 発注者に原因がある事故まで免責する書き方は避け、危険箇所の連絡義務と貸与品の点検を書く。
- 負傷で作業が途中で止まったときは、作業区分の配分で報酬を按分する。
清掃スタッフがけがをしたとき、何で備えるかは契約書で決まります
民泊の清掃スタッフが現場でけがをしたとき、治療や休業中の収入を支える仕組みは、スタッフが従業員か、業務委託の個人事業主かで大きく分かれます。従業員なら労災保険(仕事中や通勤中の災害に対する、労働者のための公的な保険)の対象になります。業務委託の個人事業主は、そのままでは労災保険の対象になりません。ただし、実態が労働者と評価されれば契約の名前にかかわらず労災の対象になり得ますし、個人事業主が自分で「特別加入」という制度に入る方法もあります。
契約書でできることは三つです。どの保険で備えるかを事故の前に決めておくこと、事故の責任の置き場所を公平に分けておくこと、事故の日の連絡と休業中の報酬の扱いを書いておくことです。保険の給付そのものの手続は、加入先の案内に従うものですので、このページでは扱わず、契約書にどう書くかに絞ります。
- 労災の位置づけ:従業員は労災の対象。業務委託は特別加入に入っているか、傷害保険などで備えているかを確かめる。
- 責任の置き場所:スタッフの不注意、清掃会社の指示や貸与品、物件の設備の不具合のどれが原因かで、請求の相手が変わる。
- 事故の日の手順:誰に、いつまでに、何を知らせるか。一人作業で連絡できないときはどうするか。
- 休業中の扱い:途中で作業ができなくなった物件の報酬と、その後の発注。
損害賠償の上限や保険の全体像は清掃会社の損害賠償の上限と賠償責任保険で、スタッフを個人事業主として扱うときの労働者性の考え方は清掃スタッフとの業務委託契約書で扱っています。ここでは「スタッフ自身のけが」と、その周りの責任の分け方に話を絞ります。
清掃の現場では、どんな場面でけがが起きやすいのでしょうか
民泊の清掃は、短い時間に多くの作業を一人でこなすため、一般の住宅の掃除とは違う事故の型があります。契約書の条文は、実際に起きる場面から逆算して書くと、抜けが少なくなります。
| 場面 | 起きがちなこと | 契約で先に決めること |
|---|---|---|
| 高所の作業 | 脚立に乗って照明・カーテンレール・換気扇を拭く最中の転落 | 高所作業の可否、脚立は誰が用意するか、物件備え付けの踏み台を使ってよいか |
| 重い物の運搬 | 布団・マットレス・大量のリネンを階段で運んで腰を痛める | エレベーターのない物件の運搬方法、一人で運んでよい量、複数人での作業の条件 |
| 薬剤の取扱い | 洗剤の混ぜ使いによるガスの吸入、手荒れ、目に入る事故 | 使用してよい薬剤、物件に備え付けの洗剤の扱い、保護具を誰が用意するか |
| ゲストとの接触 | 滞在中や退出の遅れた部屋に入ってしまい、トラブルになる | 入室してよい時間と、ゲストがいたときに作業を止める基準 |
| 危険物の遭遇 | 使用済みの針・割れたガラス・刃物がゴミに混ざっている | 見つけたときの扱い(触らない、写真を撮る、報告する)と、回収してよい物の範囲 |
| 暑さと寒さ | 夏の閉め切った部屋で、空調が止まったまま作業して体調を崩す | 空調を使える条件、休憩を取ってよいこと、作業を中断してよい基準 |
| 移動中 | 物件間を自転車や車で移動する間の事故、早朝・深夜の移動 | 移動中の事故を誰が負担するか、移動の方法の自由、移動時間の扱い |
表の最後の「移動中」は、契約書で見落とされやすい場面です。1日に複数の物件を回る清掃では、作業そのものより、物件間の移動の事故のほうが重くなることがあります。業務委託のスタッフの移動は、原則としてスタッフ自身の判断と責任で行うものとし、その移動中の事故に備える保険をスタッフ自身が用意する、と整理するのが実務では多く見られる形です。
業務委託のスタッフは、労災の対象になるのでしょうか
結論から言うと、業務委託の契約を結んでいるというだけでは、労災の対象にはなりませんが、実態によっては対象になり得ます。労災保険は、労働者の仕事中や通勤中の災害に備える制度です。労働者とは、事業に使用される者で、賃金を支払われる者をいいます(労働基準法9条)。契約書の題名が「業務委託契約」でも、仕事を断れない、作業の方法を細かく指示される、時間や場所を拘束される、といった実態があれば、労働者と評価される可能性があります。
「労災を主張しない」と書いても、効力は変わりません
実務では、業務委託の契約書に「乙は労災保険その他の労働関係法令の適用を主張しない」と書かれていることがあります。しかし、労働者に当たるかどうかは契約の文言ではなく実態で判断されるため、この一文でスタッフの権利を封じられるとは考えにくく、むしろ「労働者性を意識して書いた条項」として、実態の評価で不利に働く方向に読まれるおそれがあります。契約書では、権利の放棄を書くのではなく、次のように「どう備えるか」を書くほうが実用的です。
清掃業務委託契約 第◯条(労働保険及び傷害保険)
1甲と乙は、本契約が雇用契約ではなく、乙が独立した事業者として業務を行うものであることを確認する。
2乙は、本契約に基づく業務中及び業務のための移動中の負傷、疾病又は死亡に備え、労働者災害補償保険の特別加入その他乙が選択する保険に、自己の責任と費用負担で加入する。
3乙は、業務の開始前に、前項の保険の種類、加入先の名称、加入日及び補償の対象となる作業の範囲を甲に書面又は電磁的方法で申告し、加入を証する書類を提出する。保険の更新又は変更があったときも同様とする。
4乙が第2項の保険に加入していないときは、乙は、その旨と加入しない理由を甲に申告し、甲は、乙が加入していない事実を確認したうえで業務を発注する。
加入を「義務」にするか「申告」にとどめるかは、スタッフの人数や物件の危険度で決めます。第4項は、加入していない事実を双方が把握したうえで取引する形です。
第1項で雇用契約でないことを確認しつつ、第2項以下で備えを具体的に書く、という組み合わせにしています。備えを書くことは、独立した事業者として自分の危険を自分で管理する、という契約の性格と整合します。
同じ現場で同じ転倒事故が起きたとき
同行する自社の従業員と業務委託のスタッフが同じ現場で働くと、同じ事故でも備えが違ってきます。この差を知らないまま発注すると、事故の後の説明がつかなくなります。
一人親方の特別加入は、契約書にどう組み込めばよいでしょうか
特別加入とは、労働者以外の人のうち、労働者に準じて保護するのがふさわしい人が、任意で労災保険に加入できる制度です。厚生労働省の説明では、特別加入の対象は、中小事業主等、一人親方等、特定作業従事者、海外派遣者の4種類に分かれます。一人親方等は、同じ業種の一人親方の団体に加入し、その団体を通じて手続をするのが基本です。2024年11月からは、業務委託を受けて働くフリーランスを広く対象にする「特定フリーランス事業」の枠が加わりました。企業から業務委託を受ける場合に加え、消費者から委託を受ける同種の事業も含まれると案内されています。
民泊清掃のスタッフには、従業員を使わずに業務委託を受けて働く個人が多くいます。そうした人が特別加入の対象になり得るかどうか、どの作業までが補償の対象になるかは、加入先の団体の案内で確かめる事項です。契約書の側では、次の三点を決めておきます。
- 加入を条件にするか:全員に義務付けるか、危険の高い作業(高所、重量物の運搬)を伴う物件だけを条件にするか、申告にとどめるか。
- 何を提出させるか:加入先の名称、加入日、補償の対象となる作業の範囲を示す書類。更新のたびに出させるかどうか。
- 費用を誰が持つか:スタッフの負担を原則とし、発注者が一部を補助するなら、報酬の上乗せか、別立ての補助かを決める。
加入先ごとに、補償の対象となる作業の範囲や、保険の効力が生じる時期が定められています。清掃、リネンの運搬、ゴミの搬出、移動のどこまでが対象かを確かめ、その結果を契約書の別紙に写しておくと、事故のあとに「その作業は対象外だった」という行き違いを減らせます。効力が生じる前に起きた事故は対象にならないのが通常のため、条文には「業務の開始前に加入を済ませる」と書いておきます。
費用の補助は、報酬への上乗せで考える
発注者が保険料を補助したい場合、報酬から何かを差し引く形ではなく、単価に織り込む形のほうが、スタッフの独立性の面でも説明がつきやすくなります。次の計算は、考え方を示すための仮の数字です。
| 項目 | 計算 | 結果 |
|---|---|---|
| 年間の保険料(仮) | 36,000円 | 36,000円 |
| 年間の見込み稼働件数(仮) | 300件 | 300件 |
| 1件あたりの補助額 | 36,000円 ÷ 300件 | 120円 |
| 補助を全額とせず半分にする場合 | 120円 × 1/2 | 60円 |
見込みの件数と実際の件数がずれると、補助の総額もずれます。そのため、条文には「単価に含まれる」と書くのか、「実績に応じて別途支払う」と書くのかを、あらかじめ選んでおきます。システム利用料などを報酬から控除する場合の注意は清掃スタッフとの業務委託契約書のページで整理しています。
法人のスタッフと、従業員のいるスタッフ
スタッフが法人で、従業員を使っている場合、その従業員のけがについては、スタッフの会社が使用者として責任を負う立場になります。再委託や応援を受け入れるときは、契約書に「乙の従事者の労働関係法令上の義務と安全衛生は乙が負う」と書き、発注者が従事者に直接の指示をしない運用と整合させます。再委託の組み方は民泊清掃の再委託と多層構造で扱っています。
事故の責任は、スタッフ・清掃会社・物件の側のどこにあるのでしょうか
スタッフがけがをしたとき、原因は大きく三つに分けられます。スタッフ自身の不注意、清掃会社の指示や貸与品の問題、物件の設備や環境の不具合です。どの原因かによって、請求の相手が変わります。
| 原因 | 誰に責任が問われ得るか | 契約書での手当て |
|---|---|---|
| スタッフの不注意 | スタッフ自身(過失相殺で、請求額が減らされることがある。民法722条2項の考え方) | 自己の安全に配慮する義務と、保険での備えを書く |
| 清掃会社の指示・貸与品 | 清掃会社(契約関係にある相手への安全配慮義務の問題として、民法415条の債務不履行や、同709条の不法行為が問われる場合がある) | 危険な作業を指示しない、貸与品は点検して渡す、と書く |
| 物件の階段・手すり・ベランダ | 物件を占有している運営者。占有者が必要な注意をしていたときは所有者(民法717条1項) | 清掃会社が物件側に責任を求められる根拠と、スタッフへの情報提供の流れを書く |
| ゲストなど第三者の行為 | 行為をした第三者(不法行為。民法709条) | 第三者の行為による負傷の報告と、証拠の保存を書く |
契約関係にある相手の安全に配慮する義務は、「安全配慮義務」と呼ばれます。雇用契約では使用者が労働者の安全に配慮する義務を負うと定められています(労働契約法5条)。業務委託でも、発注者が作業の方法や使う道具を決めているなど、実態が雇用に近いときは、同じ趣旨の義務が問われる余地があります。契約書で「甲は安全配慮義務を負わない」と書いても、実態を覆す力はありません。
「業務中の事故は乙の責任、甲は一切責任を負わない」の問題
実務でよく見られる書き方に、業務中に生じた事故や傷害は、乙の過失の有無にかかわらず乙が負担し、甲は責任を負わない、というものがあります。事業者どうしの契約でも、発注者の故意や重大な過失、発注者が貸与した用具の欠陥まで免除する書き方は、公序良俗に反する(民法90条)などとして、その部分の効力が否定されるおそれがあります。免責を残すなら、免責の範囲を、スタッフ自身の判断と責任で行う部分に限る書き方にします。
清掃業務委託契約 第◯条(安全の確保及び責任の分担)
1乙は、自己の安全に十分に配慮し、作業の方法、使用する用具及び保護具を自己の責任で選択して業務を行う。
2甲は、乙に対し、物件ごとの危険箇所(階段、ベランダ、高所、滑りやすい場所、使用を避けるべき設備)その他安全に関わる情報を、業務の開始前に連絡する。
3甲が乙に貸与する用具は、甲が事前に点検し、不具合があるときは貸与しない。乙は、貸与を受けた用具に不具合を認めたときは、使用を中止して甲に連絡する。
4乙の業務中の負傷等は、乙の故意又は過失によるものである場合は、乙が自己の責任で処理する。ただし、甲の故意若しくは重大な過失、甲が貸与した用具の不具合、又は甲が連絡した情報に誤りがあったことによるときは、この限りでない。
5物件の設備の不具合その他乙の責めに帰すべき事由によらない原因で乙が負傷したときは、甲は、物件の所有者又は運営者に対する責任の追及に必要な資料を提供する等、乙の求めに応じて協力する。
第4項のただし書で、免責の範囲に例外を置いています。第5項は、請求の主体を清掃会社に移すのではなく、スタッフ自身の請求を妨げない協力義務にとどめています。
請負の形でスタッフに仕事を出している場合、注文者は、請負人が仕事について第三者に加えた損害を賠償する責任を原則として負いませんが、注文や指図に過失があったときは別とされています(民法716条)。作業の方法を清掃会社が細かく指図するほど、この例外に近づきます。スタッフがゲストや近隣にけがをさせた場合の賠償の流れは、清掃会社の損害賠償の上限と賠償責任保険のページで詳しく整理しています。
| 備え | 守るもの | 契約書で決めること |
|---|---|---|
| 労災保険の特別加入 | スタッフ本人の業務中・移動中のけが(対象となる作業の範囲は加入先ごとに定められる) | 加入の有無の申告、加入先・加入日・対象作業の範囲の提出、更新時の再提出 |
| 傷害保険 | スタッフ本人のけが(通院・入院・後遺障害など。商品により範囲は異なる) | 加入の有無、保険金額の下限を設けるか、加入を条件にするか |
| 賠償責任保険 | スタッフが他人(ゲスト、物件、第三者)に与えた損害 | 誰が加入するか、スタッフを被保険者に含めるか、事故のときの連絡先 |
三つの備えは、守る相手が違うため、片方があれば足りるというものではありません。スタッフ本人のけがには、労災の特別加入や傷害保険が働き、スタッフが他人に与えた損害には、賠償責任保険が働きます。
けがをした日の手順と、休業中の報酬はどう決めておけばよいでしょうか
事故のときに慌てるのは、手順が決まっていないからです。一人作業が多い民泊清掃では、スタッフ本人が連絡できないことも想定して、段取りを書いておきます。
スタッフが負傷した日の流れ(一般的な例)
- 1 まず安全と手当作業を止め、必要なら救急を呼ぶ。作業の続行よりも、本人の手当を優先することを契約書にも書いておく。
- 2 第一報本人又は同行者が、清掃会社に連絡する。連絡の期限は、「できるだけ早く、遅くとも当日中」のように、本人が動ける状況を前提にする。意識がない等で本人が連絡できないときは、気づいた人が連絡する。
- 3 現場の記録負傷した場所、原因と考えられる設備や用具、日時を写真とメモに残す。物件側の設備が原因のときは、物件の運営者への連絡の準備をする。
- 4 関係先への連絡清掃会社が、物件の運営者や依頼主に、負傷の事実と作業が止まったことを知らせる。ゲストの滞在や次の予約に影響するときは、その対応も決める。
- 5 保険の連絡スタッフ本人が加入先に事故を連絡する。清掃会社は、事故の経過の報告書など、求められた資料に協力する。
- 6 再発の防止原因を踏まえ、物件の危険箇所の情報、貸与品、作業の手順を見直す。
清掃業務委託契約 第◯条(事故の報告)
1乙は、業務中又は業務のための移動中に負傷し、又は他人に損害を与えたときは、できる限り速やかに、遅くとも当日中に、その概要を甲に連絡する。
2乙が負傷により前項の連絡をすることができないときは、同行者その他事故を知った者が連絡する。この場合、乙が連絡できるようになった後、改めて第1項の連絡をする。
3甲及び乙は、事故の原因となった設備、用具又は場所の状態を、写真その他の方法で記録し、調査に協力する。
4乙は、事故について、甲の承諾なく、物件の所有者、運営者、宿泊者その他の第三者に対し責任を認め、又は賠償を約束してはならない。
重大事故の報告に「24時間以内」のような短い期限を一律に課す書き方も見られますが、本人が動けないことを想定していない期限は、守れないこと自体が争いの種になります。
休業中の報酬は、作業の区分で按分する
物件の作業の途中で負傷し、残りの作業ができなくなる場面があります。このとき、すでに行った作業の報酬を払うのか、全部払わないのかが決まっていないと揉めます。請負として見ると、仕事の完成前に契約が終わったときでも、すでにした仕事の可分な部分の給付で注文者が利益を受けるときは、その割合に応じた報酬を請求できる、という考え方があります(民法634条)。この考え方を使って、作業の区分ごとの配分を単価表に書いておくと、計算が機械的にできます。
| 作業の区分 | 配分 | 完了した区分の報酬 |
|---|---|---|
| 寝室・ベッドメイキング | 40% | 12,000円 × 40% = 4,800円 |
| 浴室・トイレ | 30% | 12,000円 × 30% = 3,600円 |
| キッチン・リビング | 20% | 未実施(0円) |
| 最終確認・写真報告 | 10% | 未実施(0円) |
| 合計 | 100% | 4,800円 + 3,600円 = 8,400円 |
この例は、1件の報酬を12,000円(仮)とし、寝室と浴室・トイレまで終えた時点で負傷した場合です。完了した区分の合計は8,400円で、残りの3,600円は、別の人が残りの区分を仕上げた場合に、その人への報酬の原資にできます。区分の配分は、依頼主向けの料金表の区分と合わせておくと、依頼主に請求できる範囲と一致します。キャンセルや入室できなかった場合の考え方は民泊清掃の依頼・キャンセル料・入室できなかった場合と同じ発想です。
清掃業務委託契約 第◯条(負傷等による業務の中断)
1乙が負傷又は疾病により、個別の業務の途中で業務を継続できなくなったときは、乙は、そのことを速やかに甲に連絡する。甲は、残りの業務を他の者に行わせることができる。
2前項の場合、甲は乙に対し、別紙の作業区分ごとの配分に従い、乙が完了した区分に相当する報酬を支払う。
3乙は、前項の請求にあたり、負傷等の事実を示す資料を、乙が提出できる範囲で甲に提出する。ただし、医療に関する情報の提出は、乙が任意に行うものとする。
4乙が負傷等により業務を行えない期間、甲は、乙に新たな業務を発注しないことができる。この場合において、甲は、乙が業務を行えるようになった後の発注を、負傷等を理由に不利益に取り扱ってはならない。
第3項は、診断書などを一律に求めるのではなく、本人が出せる範囲にとどめています。第4項で、けがをしたこと自体を理由にした将来の発注の差別を防ぎます。
よくある失敗と直し方
実務で見られる書き方のうち、事故の場面で問題になりやすいものを、直し方とあわせて整理します。
書き方の例(一般的な例) 労災・事故の条
事故の責任
発注者側に原因があっても免責する書き方は、公序良俗に反し、効力が否定されるおそれがあります。免責の範囲に例外を置きます。
労災の扱い
権利を放棄させる書き方は、実態の評価で不利に読まれるおそれがあります。備えを具体的に書きます。
保険の位置づけ
任意とだけ書くと、加入していない事実が事故まで誰にも分からず、事故のあとに揉めます。
負傷時の報酬
途中までの作業が無償になる書き方は、実際の運用で不満の元になります。按分の方法を書きます。
事故の報告
本人が動けない状況を想定していない期限は、守れないこと自体が争いの種になります。
ヒヤリングで確認すること
契約書を作る前に、次の点を確認します。回答によって、条文の厚みが変わります。
ヒヤリングで聞く問い(一般的な例) 労災・事故の条を決めるための確認
- スタッフは、個人ですか、従業員のいる法人ですか。個人で従業員を使わないなら、特別加入などで自分の備えを持つ立場になります。従業員がいるなら、その従業員の労務と安全はスタッフの会社の責任として、再委託・従事者の条と合わせます。
- 労災保険の特別加入や傷害保険に入っていますか。入っている場合、加入先・加入日・対象となる作業の範囲は。入っているかどうかで、条文を「確認」で足りる形にするか、「加入を条件」にする形にするかが決まります。対象となる作業の範囲は、契約の別紙に写します。
- 作業に、高所、重量物、薬剤、ゲストが滞在中の入室、早朝や深夜、一人作業は含まれますか。危険の種類に応じて、禁止する作業、条件付きで認める作業、保護具の条文を分けます。
- 用具(脚立、掃除機、保護具)は、誰が用意しますか。発注者が貸与するなら、点検と不具合時の扱いの条が必要になります。スタッフが用意するなら、その旨と費用の負担を書きます。
- 自社の従業員がスタッフと同行する現場はありますか。同行の有無で、同じ事故でも備えが変わります。同行する従業員との役割分担と、現場での指示の出し方を契約に書き分けます。
- 物件の階段、ベランダ、設備は、誰が点検していますか。物件側の不具合が原因の事故は、物件の運営者や所有者への責任の追及が絡みます。清掃会社が把握している危険箇所を、スタッフに連絡する流れを確かめます。
- 事故のとき、24時間連絡がつく担当者はいますか。連絡の期限と宛先の条文が、実際に守れるものになっているかを確かめます。
回答は、保険の条、安全の条、事故の報告の条、休業の条にそのまま反映します。
キーボックスの管理や、事故のとき承諾なく示談しないという初動の考え方は民泊のキーボックス・鍵の管理と契約書でも扱っています。高所の作業を含む専門の作業の分け方はエアコンクリーニングの利用規約と事故対応が参考になります。
よくあるご質問
業務委託の清掃スタッフが現場でけがをしたら、労災は使えますか?
従業員なら労災保険の対象ですが、業務委託の個人事業主は、そのままでは対象になりません。特別加入に入っていれば、加入に基づく備えがあります。実態が労働者と評価される場合は、契約の名前にかかわらず労災の対象になり得ます。
一人親方の特別加入は、契約書で義務付けられますか?
加入を発注の条件にすることは、契約の設計として可能と考えられます。ただし、加入の有無や補償の対象となる作業の範囲は加入先ごとに異なるため、義務にするか申告にとどめるかは、作業の危険度とスタッフの人数で決めます。費用の補助をする場合は、単価に織り込むのか、別立てにするのかを条文で選んでおきます。
「業務中の事故は乙の責任とし、甲は一切責任を負わない」と書いてあれば安心ですか?
いいえ。発注者の故意や重大な過失、貸与した用具の不具合まで免除する書き方は、公序良俗に反するなどとして、その部分の効力が否定されるおそれがあります。免責は、スタッフ自身の判断と責任で行う部分に限り、例外を置いておきます。
物件の階段や設備が原因でスタッフがけがをしたとき、誰に責任がありますか?
物件の設備に不具合があった場合は、物件を占有している運営者、占有者が必要な注意をしていたときは所有者が責任を負う場合があります(民法717条1項)。清掃会社は、危険箇所をスタッフに連絡する義務と、スタッフの請求に協力する義務を契約書で定めておきます。
けがで作業を途中で中断したときの報酬は、どう決めればよいですか?
作業の区分ごとの配分を単価表に書き、完了した区分に相当する報酬を支払う形にすると、計算が機械的にできます。負傷を理由に将来の発注で不利益に扱わない旨も、あわせて書いておきます。
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本ページは一般的な情報提供です。届出・登録・許可の運用は、所管の行政機関や自治体によって異なることがあります。紹介している書き方は、民泊・宿泊施設の清掃に関する一般的な契約実務を整理した例であり、特定の事業者の契約書を示すものではありません。条文は e-Gov法令検索で確認しています。参考: e-Gov法令検索 / 民泊制度ポータルサイト(観光庁) / 特定商取引法ガイド(消費者庁) / フリーランス法特設サイト(公正取引委員会)