清掃スタッフとの業務委託

民泊の清掃会社は、個人事業主や小規模な法人の清掃スタッフに業務委託で仕事を出すことが多くあります。ここでは民泊清掃に特有の設計に絞って紹介します。

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1人会社の清掃会社は、スタッフに出す側としてはフリーランス法の義務の多くを負わない一方、運営会社から受ける側としては守られる側になり得ます。

このページの要点

  • 仕事を断る自由、作業の方法と順序の裁量、具体的な指揮監督をしないこと、請求書による請求、兼業の自由を確保する。
  • 研修期間の単価は、担当者の判断ではなく、スタッフとの協議のうえ合意で引き上げる。
  • システム利用料を報酬から控除するなら、対象・金額・根拠を明示する独立の条にする。
  • オーナーとの直接取引・引抜きの禁止には期間を付け、違約金と実損害の賠償を定める。

民泊清掃に特有のスタッフ契約の論点

民泊の清掃会社は、自社の従業員だけでなく、個人事業主や小規模な法人の清掃スタッフに業務委託で仕事を出すことが多くあります。家事代行のスタッフとの契約と共通する部分もありますが、このページでは民泊清掃に特有の設計に絞って紹介します。自社のスタッフが同行するときの時給制と、単独で作業するときの出来高制の切替え、研修期間の単価、業務管理システムの利用料の控除、清掃会社自身が守られる側に回る構造、オーナーとの直接取引の禁止です。

労働者と見られないために:依頼者の要望と5つの手当て

清掃会社が発注者として個人事業主に委託する案件では、依頼者からは、ヒヤリングシートで、労働者性に配慮した書き方にしてほしいとのご希望がありました。発注者の従業員(ヘルプサポートのスタッフ)が同行して時給制で稼働する形は、労働者性が問題になりやすい類型です。そこで、依頼者との協議を踏まえた改訂で次の5点を手当てしました。

労働者性に配慮して手当てした5点
項目改訂の内容
業務の性質「独立の事業者として自己の裁量により行う」を追加
指揮監督作業の方法・順序・時間配分は受注者の裁量。ヘルプスタッフが同行する場合でも、受注者の側の作業者への具体的な指揮監督は受注者自身が行う
時給の単価受注者が決定し、稼働までに氏名と単価を発注者に提示する方式(当初の「協議で決定」から変更)
報酬の確定稼働の報告を発注者が確認して確定する方式から、受注者が請求書を発行・提出する方式へ変更(受注者の適格請求書発行事業者の登録番号も明記)
兼業受注者が他の発注者から同種の業務を受託することを妨げない

加えて、発注者は受注者やその従事者に直接指揮命令を行わず、要望は受注者又はその指定する責任者を通じて伝えること、従事者の労務管理・安全衛生・社会保険などの事務は受注者の責任であることも明記しました。もっとも、これらは契約書の文言の上での手当てで、実際の運用(指示の具体性、勤怠の管理の程度)が判断に影響することを、ご説明書でお伝えしています。労働者かどうかは、契約の名前ではなく、仕事を断る自由、指揮監督の有無、時間・場所の拘束、代わりの人に任せられるか、報酬の性格などで判断されます(労働基準法9条の「使用される」の判断。昭和60年の労働基準法研究会報告)。

時給制と出来高制の二階建て

この案件の依頼内容は、発注者のヘルプスタッフが同行するときは時給制(受注者の側のスタッフによって単価が異なる)、同行せず受注者だけで作業したときは棟ごとの完全出来高制、というものでした。条では次のように書いています。

  1. 個別の業務ごとに、ヘルプスタッフの同行の有無で算定の方法を切り替える。
  2. 時給制の稼働時間は、到着の時刻から完了の時刻まで(受注者の責めによる中断を除く)とし、到着・完了の時刻は個別の業務ごとに連絡ツールで確かめる。
  3. 依頼のときに、棟の別・実施日・チェックアウト/チェックインの時刻・同行の有無を明示し、変更があれば速やかに連絡する。
  4. 請求書には、実施日・棟の別・同行の有無・(時給制の場合のみ)稼働時間を書く。

交通費は、見本の契約にあった日額の定めについて依頼者が「なし(契約書に触れなくてよい)」と回答したため、金額ゼロの条を残すのではなく、条自体を削除しました。ゼロと書いた条が残っていると、「本来は払うべきもの」という読み方の余地が残るからです。

研修期間の単価は「協議のうえ合意で」引き上げる

新しく清掃の会社を立ち上げる案件の提案書では、昭和60年の労働基準法研究会報告の判断の要素と最高裁の判決を挙げ、依頼者の運用のうち2点が指揮監督の評価に影響し得ると指摘しました。

事務所の改訂例 スタッフの研修期間の単価

単価の引上げ

改訂前研修期間中は基本報酬の低い割合とし、研修担当者の判断で段階的に引き上げる。(依頼者の運用)
改訂後研修期間中は単価表の研修の単価とし、習熟度や遂行の状況を踏まえてスタッフと協議のうえ引き上げることができ、引上げは合意により行い一方的に決定しない、と条文にしました。単価表の備考も「協議」に統一しました。

担当者の判断で処遇を一方的に決めることは、指揮監督の徴表になり得ます。

清掃の不備の再対応

改訂前清掃の不備のときに再対応させる。(依頼者の運用)
改訂後契約不適合の責任の履行として構成しました(検収と再清掃)。

懲戒的な「やり直しの命令」と受け取られないようにします。

草案では、このほか、個別の発注への諾否の回答、法令・個別の発注・提供された仕様に反しない限り遂行の方法と順序はスタッフの裁量であること、関連会社の担当者による連絡・調整は発注者の名で行う履行補助者としての連絡にとどまること、他の事業者のために同種の業務に従事することを妨げないこと、ハラスメントの防止の体制と相談窓口、個人事業主の税務上の手続は自己の責任であること、を置きました。

システム利用料の控除

ご相談と回答 報酬からの控除

業務管理システムの利用料(1人あたり月額の定額)を、スタッフの報酬から差し引いてよいですか。
業務委託の契約上の合意による差引の計算として原則として有効です。ただし、スタッフが労働者と評価されると、賃金は全額を払わなければならないという原則(労働基準法24条1項)により、労使協定などがない控除は違反になるリスクがあります。労働者性の論点と一体で管理すべきとお伝えし、利用料(税抜額と税込額を併記)を報酬から控除して支払うことができる、控除の対象・金額・算定の根拠を明らかにする(請求書への記載で足りる)、という独立の条にしました。清掃会社が従業員を使用するなど特定業務委託事業者に当たる場合は、正当な理由のない利用の強制や報酬の減額に当たらないよう、利用の必要性と金額の相当性を確かめ、フリーランス法3条の取引条件の明示にあらかじめ書いておく必要があります(同法5条)。

オーナーとの直接取引・引抜きの禁止

業務委託契約 第◯条(引抜き及び直接取引の禁止)

1甲及び乙は、本契約の有効期間中及び終了後1年間、相手方の役員、従業員及び従事者を勧誘しない。ただし、本人の発意により相手方との契約関係を終了した後の契約は、この限りでない。

2乙は、本契約の有効期間中及び終了後1年間、甲の書面による承諾がある場合を除き、甲を介さずに対象物件の所有者又は運営者と同種の業務の契約を締結し、又はその交渉をしない。

3前二項に違反したときは、違反した当事者は違約金として○円を支払う。実際の損害がこれを超えるときは、その損害を賠償する。

依頼者のご要望は「お互いの引抜きNG」「オーナー交渉NG」でした。違約金の額は依頼者が「お任せ」としたため事務所で設定し、期間を区切らない禁止は公序良俗に反して無効とされるリスクがあるため(民法90条)、直接取引の禁止にも期間を付けました。

新しく清掃の会社を立ち上げる案件のスタッフとの契約では、存続中と終了後の一定期間、書面の承諾なくオーナーなどと発注者を介さずに同種の業務の契約を結び・勧誘すること、発注者の役員・従業員・他の清掃スタッフを離脱させ・勧誘することを禁止し、違反のときは損害賠償としました。民泊清掃の事業の「卒業型」の枠組みを業務委託に切り替える契約のレビューでは、初期の支援費を報酬から相殺して回収する仕組み、粗利の定義と分配、人材の引抜き・既存の顧客への接触の禁止(違約金付き)が並んでいたため、粗利の構成項目(外注費・交通費・キャンセル・未回収金)の明確化、早期に終了したときの残額の扱い、違約金の減額のリスクと実損害の立証を補うよう提案しました。

清掃会社自身が「守られる側」になる構造

新しく清掃の会社を立ち上げる依頼者は、代表者のほかに役員も従業員もいない新設の法人でした。この前提から、スタッフとの契約とオーナー・運営会社との契約で、フリーランス法の向きが逆になることを整理しました。

フリーランス法の向き

スタッフとの契約(清掃会社が発注者)オーナー・運営会社との契約(清掃会社が受注者)
清掃会社の立場従業員を使わない新設の法人は「特定業務委託事業者」(従業員を使用する、又は2人以上の役員がいる法人)に当たらない(同法2条6項)清掃会社自身が「特定受託事業者」に当たる可能性が高い
かかる規律取引条件の明示(3条)は業務委託事業者全般にかかる。60日以内の支払期日(4条)、禁止行為(5条)、6か月以上の継続的業務委託の解除・不更新の30日前の予告(16条)は特定業務委託事業者の規律従業員を使用する運営会社は、清掃会社に対してフリーランス法上の義務を負う
契約での手当て依頼者の希望と将来の増員に備えて、1か月前の予告、翌月払い、再対応を契約不適合として構成する設計は契約書に残した月単位の締切期間の末日までの役務に支払うことと単価をあらかじめ契約に明記し、同種の清掃が連続して提供される前提で、毎月1日〜末日の役務を締切日に提供されたものとして扱い、翌月末日に払う運用を明文化した

清掃会社が「受ける側」になる契約では、自社の受取りの条件を守る根拠をあらかじめ契約に書いておくことが、自社の防御になります。

ご相談と回答 月末締め翌月末払い

月末締め翌月末払いで、フリーランス法の60日の決まりは大丈夫ですか。
役務の受領日は、原則として個々の役務の提供日です。月単位の締切期間の末日までの役務に支払うことと、単価・算定方式をあらかじめ合意して契約(取引条件の明示)に明記し、同種の清掃が連続して提供される場合は、締切日に役務が提供されたものとして扱えます(公正取引委員会・厚生労働省「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律の考え方」)。この場合、月末締め翌月末払いなら約31日で収まります。これらの条件を満たさずに単純に月末締め翌月末払いにすると、月初の役務では60日を超えることがあるため、契約書に明文化しました。

スタッフにさらに再委託させるかどうかの設計は、再委託と多層構造のページで解説しています。

個人と法人が混ざるスタッフに、1本の契約書で

新しく清掃の会社を立ち上げる案件の提案書では、スタッフに個人事業主(フリーランス法の適用を受け得る)と従業員のいる法人(適用を受けない)が混ざることを踏まえ、相手の属性ごとに作り分けるのではなく、フリーランス法が求める水準(条件の明示、支払期日、解除の予告)をあらかじめ組み込んだ単一の契約書で運用する設計をお勧めしました。署名欄は個人事業主用(住所・屋号・氏名)と法人用(所在地・法人名・代表者)を並べ、該当する欄を使うと注記しています。個人と法人で契約書を作り分けると、条件がばらばらになり管理しきれなくなりがちです。

ヒヤリングで確かめたこと スタッフとの契約の組み方

  1. 1名ごとの個別の契約にしますか、基本契約+個別の発注書の二階層にしますか。個別の発注はどの方法で通知しますか。契約の組み方と発注の方法を最初に決めます。
  2. スタッフの再委託を認めますか。認める場合の条件は。再委託の条の形が決まります(再委託と多層構造)。
  3. 専属にしますか(他社の同種の業務の兼業を制限しますか)。条項では、兼業は妨げない一方で、オーナー等との直接取引と人員の引抜きは存続中と終了後一定期間禁止する、という組合せにしました。
  4. ハラスメントの相談窓口の担当部署と連絡先は。相談窓口の条に書き込むための質問です。

関連会社の担当者と、受注者の側の作業者

同じ依頼者は、出資会社の役職員と協働して実務を回す予定でした。ヒヤリングでは、出資会社の役職員がスタッフへの指示などにどの立場で関わるのか(清掃会社の指示を代行する立場か、別に業務委託を受ける立場か)をお尋ねしました。スタッフとの契約では、スタッフは清掃会社、又は清掃会社から対象施設の管理業務を受託した関連会社(管理受託者)から、施設の状況やオーナー等の要望など業務上必要な情報の「連絡及び調整」を受けるとし、管理受託者の連絡・調整は清掃会社の名において清掃会社のためにされ、その効果は清掃会社に帰属する、としました。「指示」ではなく「連絡及び調整」という言葉を選び、誰の名で行うかを明記した点が工夫です。関連会社の担当者が現場でスタッフに直接細かい指示を出し、誰の指揮命令か分からなくなる、という事態を避けるための書き方です。

清掃会社が発注者として個人事業主に委託する契約では、受注者の側の作業者についても確かめました。

ご相談と回答 受注者の側の作業者

受注者以外にスタッフ(従業員・専属の外注など)はいますか。いる場合、その人たちも契約の履行に関わり、労務管理(指揮命令)は受注者が行う前提でよいですか。
回答は「いる。履行への関与・労務管理は受注者が行う前提でよい」でした。従事者を使える、同等の義務を負わせる、従事者の行為は受注者自身の行為として責任を負う、発注者は直接指揮命令しない、労務・安全衛生・社会保険は受注者の責任、という再委託・従事者の条と回答が一致していることを、説明書で確認しました。

回答で変わった細部と、卒業型の追加の論点

清掃会社が発注者として個人事業主に委託する契約では、回答を受けた改訂で、労働者性に関わる点のほかにも細部が変わりました。消費税は見本の契約にならった税込から、回答に基づき税抜+別途消費税に改めました。実際の稼働が締結より前から始まっていたため、契約期間の起算日を実際の稼働開始日とし、締結日がそれより後になるときは起算日にさかのぼって適用し、その間の業務にも契約を適用する旨を明記しました。署名欄には回答で分かった双方の電話・メールを加え、法人番号は記載しない(見本とした別の契約でも記載していない)こと、受注者の表示は屋号と個人名の併記を維持したこと、源泉徴収は回答が「なし」なので条を設けていないことを、項目ごとに説明書でお伝えしました。解除の事由には、手形の不渡り、解散・事業譲渡、監督官庁の処分、受注者(個人)の死亡・後見開始・保佐開始も置いています。

民泊清掃の事業の「卒業型」の枠組みを業務委託に切り替える契約のレビューでは、フランチャイズとしての継続的な拘束やブランドの使用を外して業務委託に転換する構成について、粗利の定義などのほかに、次の補強も提案しました。ブランド・商号を使わないこと(誤って使ったときの削除と誓約)、成果を保証しないこと(過去の実績・事例は将来の成果を示すものではない)、初期支援の義務の程度(努力義務か法的義務か)、対価の性質(出資・ロイヤリティではない)、契約終了後に継続的な対価を請求しないこと、損益の帰属、契約類型の確認(フランチャイズ・共同事業・雇用ではない)、準備期間を評価期間から除くこと、期限の利益を失う要件を緩めること、です。清掃スタッフに開業の支援をしたうえで仕事を回す事業者にとっては、スタッフとの契約とは別の論点として整理が要ります。

スタッフの単価を、依頼主向けの基本料金に対する割合で決める

新しく清掃の会社を立ち上げる案件のスタッフとの契約では、別紙の単価表で、通常清掃(単独で担当)、研修期間中の清掃、セットアップのみ(清掃なしの対応)、中間対応(ゲスト滞在中のリネン交換のみ又は部分清掃)の報酬を、いずれも「基本料金」に対する割合で定めました。ゴミの回収のみの対応は定額、清掃工程の外の対応や追加業務などのオプションは対応費に対する割合、出張費は清掃1件ごとの定額(研修中は支給の対象外)です。

同じ依頼者の依頼主向けのサービス概要では、基本料金を広さの区分ごとに定め、セットアップのみ・リネン交換のみ・部分清掃を基本料金の半分としています。スタッフの単価表も、セットアップと中間対応を通常清掃の報酬の半分の割合にしています。単価表の「基本料金」をこの依頼主向けの基本料金と読むと、依頼主に半額で請求する作業はスタッフにも半分の報酬を払う、という対応関係になり、物件の広さで基本料金が変わればスタッフの報酬もそれに応じて変わります。物件ごとに別の単価を決めなくても、報酬が作業の規模に連動する作りです。依頼主向けの区分の作り方はリネン・消耗品と料金・追加料金のページで紹介しています。

よくあるご質問

清掃スタッフを業務委託にするとき、労働者と判断されないための注意点は?

仕事を断る自由、作業の方法と順序の裁量、具体的な指揮監督をしないこと、報酬を受注者が請求書で請求すること、兼業の自由を、契約と運用の両方で確保します。契約の文言だけでなく、実際の指示の具体性や勤怠の管理の程度が判断に影響します。

時給制で業務委託を結んでも問題ありませんか?

時給制は労働者性を強める方向に働くので、単価を受注者が決めて提示する、稼働の時間は到着から完了までの事実で数える、具体的な指揮監督は受注者が行う、など独立性を示す手当てを組み合わせます。

システム利用料をスタッフの報酬から差し引いてもよいですか?

業務委託なら合意による差引として原則有効ですが、労働者と評価されると賃金の全額払いの原則に触れるリスクがあります。控除の対象・金額・根拠を明示する条にし、労働者性への配慮と一体で設計します。清掃会社が特定業務委託事業者に当たるなら、フリーランス法の利用の強制や報酬の減額の禁止にも注意します。

スタッフがオーナーと直接取引することを禁止できますか?

期間と範囲を限って禁止できます。事務所の書類では、契約中と終了後1年間、発注者を介さずに対象物件のオーナー・運営者と同種の業務の契約・交渉をしないこととし、違約金と実損害の賠償を定めています。

一人で清掃会社をしている場合、フリーランス法で守られますか?

従業員を使わず役員が代表者だけの法人は、特定受託事業者に当たる可能性が高く、従業員を使用する運営会社との取引では、支払期日などの規律で守られる側になり得ます。受取りの条件を契約に明文化しておきます。

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