このページの要点
- 責任は故意・過失がある場合に限り、設備・備品の賠償額は時価相当額を基準にする。
- 直近の数か月分の委託料などを上限とし、上限が極端に低くならないよう下限額を置く。故意・重大な過失は上限の対象外。
- 逸失利益・予約の取消しの返金・レビューの低下などの間接損害は、故意・重大な過失がない限り負わない。
- 保険の加入の義務と責任の上限は別に整理する。保険に入っていないなら、その事実を依頼主に確認させる。
清掃料金に比べて、損害は大きくなり得る
民泊や宿泊施設の清掃では、テレビ・エアコン・家具・設備の破損、鍵の紛失、ゲストからのクレームによる返金やレビューの低下など、清掃料金に比べて大きな損害が起き得ます。受託者の側で契約書を確認するときの項目は、次のとおりです。
| 項目 | 確認すること |
|---|---|
| 責任が生じる要件 | 故意・過失がある場合に限るか。「業務の結果に起因して」のような広い文言になっていないか |
| 損害の範囲 | 通常の損害に限るか。逸失利益・予約の取消しの返金・レビューの低下・信用の毀損などの間接損害を除くか |
| 上限額 | 直近の数か月分・1年分の委託料などの上限を置くか。故意・重大な過失は上限の対象外にする |
| 物の賠償額の算定 | 時価を基準にするか |
| 請求できる期間 | 原因の事由から一定期間内に限るか |
| ゲスト・第三者・依頼主側の原因 | その原因による損害を免責するか |
| 保険 | 加入の義務、加入の状況の確認、保険で填補されない部分の扱い |
| 依頼主側の責任 | 施設の不具合や依頼主の指示で、清掃会社・スタッフが損害を受けたとき |
上限がない原案は「最もリスクが高い条文」
事務所の改訂例 宿泊施設の清掃の損害賠償
上限
受託者側のレビューでは、家電の破損・鍵の紛失・設備の破損・宿泊のクレームで高額の請求があり得るとして「最もリスクが高い条文」と評価し、上限の条(その個別業務の委託料を上限とするなど)、鍵の紛失の責任の条、通常の使用による劣化・老朽化の免責の条の追加を提案しました。
賠償責任保険に入っていない清掃会社の場合
同じ清掃会社の別の契約では、ヒヤリングで、清掃会社が賠償責任保険に加入していないことが分かりました(前提事実の変更)。事務所は次の組合せで設計しました。
清掃業務委託契約 第◯条(損害賠償)の骨子
1甲及び乙は、本契約に違反し、又は責めに帰すべき事由により相手方に損害を与えたときは、その損害を賠償する。設備・備品の賠償額は時価相当額を基準として算定する。
2乙の賠償額は、乙の故意又は重大な過失による場合を除き、原因となった事由が生じた月の前○か月間に支払われた委託料の合計額を上限とする。ただし、その合計額が○円に満たないときは○円を上限とする。
3乙は、乙の故意又は重大な過失による場合を除き、逸失利益、予約の取消しに伴う返金・補償、予約サイトでの評価の低下、信用の毀損その他の間接損害・特別損害を賠償しない。
4損害賠償の請求は、原因となった事由が生じた日から○か月以内に、書面又は電子メールで行う。
5宿泊者その他の第三者の行為に起因する損害について、乙は、乙の故意又は重大な過失がない限り責任を負わない。
6甲は、乙が賠償責任保険に加入していないことを確認し、了承する。甲は、施設の所有・管理・宿泊者の受入れに伴う損害に備える保険への加入に努め、乙は事故のときの資料の提供に協力する。
上限に下限額を置いたのは、委託料が少ない月の事故で上限が極端に低くなり、実質的に責任を免れる条項と評価されないようにするためです。保険に入っていない事実を依頼主に確認させる一文は、後から「保険で払えるはず」と言われないための備えです。
ホテル清掃:保険の加入の義務と責任の上限は別のこと
事務所の改訂例 ホテル清掃の責任と保険
責任の要件と上限
受託者側のレビューでは、「保険の加入の義務」と「責任の上限」は別に整理すべき事項であり、保険の免責事由・限度額の超過・支払の対象外の場合に不足分を全額負担するおそれがある、委託料と比べて均衡を欠く、と指摘しました。
新しく清掃の会社を立ち上げる案件の利用申込書では、清掃会社の故意・過失による損害は賠償するが、原因となった提供に係る直前1か月分の料金の相当額を上限とし(故意・重大な過失、生命・身体の侵害は除く)、営業の休止による損害(逸失利益を含む)は故意・重大な過失がない限り負わない、としました。あわせて、対象施設の設備の隠れた不具合その他依頼主の責めに帰すべき事由で清掃会社・スタッフに損害(けがを含む)を与えたときは、依頼主が賠償する、という依頼主の側の責任の条も置いています。施設の不具合でスタッフがけがをする場面への備えです。
清掃会社が発注者となる契約では、依頼者の回答で上限は設けず、故意・過失による建物・設備・家具・家電・備品の破損・汚損は修理費・交換費用などを賠償する形としました。発注者は損害保険に加入済みで、受注者には適切な保険への加入に努める努力義務を置いています。立場が変われば、同じ清掃会社でも書き方が変わります(スタッフとの業務委託)。
運営代行やホテルの側から示される条項を予想しておく
運営代行の契約を施設の側から依頼を受けてレビューした案件では、運営代行の草案が「故意又は重過失による直接かつ現実の損害に限る」「特別損害・逸失利益・間接損害は免責」でした。施設の側から見れば極めて不利なため、改訂では軽い過失も対象とし(ただし重大な義務違反の場合に限る)、行政への対応の費用・営業の損失・信用の毀損・専門家の費用などを予見できる範囲で賠償の対象とする設計を採りました。清掃会社が運営代行やホテルの運営会社から清掃を受ける場合、相手方からはこの方向の条項が示され得ることを前提に、交渉のポイントを準備しておきます(運営代行から受けるとき)。
エアコンの分解洗浄など専門の作業は、日常の清掃と分ける
専門の作業の扱い(事務所の書類から)
| 作業 | 扱い | 補足 |
|---|---|---|
| エアコン本体・前面パネルの拭き上げ、フィルターの清掃 | ○ | 通常の清掃に含む(設置場所が高すぎる場合は対象外) |
| エアコンの分解洗浄(通常機・お掃除機能付き) | △ | オプション。日常清掃の契約では参考の別紙とし、実施の都度見積りと承認 |
| レンジフード・浴室全体・ダクトの清掃 | △ | 同上 |
| 電気工事・配管工事・高圧洗浄機を使う作業 | × | 事前の同意なしには行わない(ハウスクリーニングの規約) |
家主不在型の民泊の契約では、ハウスクリーニングの推奨内容と目安を参考の別紙とし、業務に含まれない、実施するときはその都度見積りを示し承認を得る、と位置づけました。日常の清掃の契約と専門の作業の契約を分けておくと、事故のときの責任と保険の議論を日常の清掃に持ち込まずに済みます。
個人事業のハウスクリーニング業者の規約では、高所の作業・特殊な機器の取扱い・電気水道ガスの設備への接続を要する作業など危険を伴う業務は、事業者が実施の可否と条件を合理的に判断し、必要に応じて別に同意を得て実施する、作業の対象物の性状・経年劣化・素材の特性によって清掃の効果に限界があることを利用者が承諾する、という構成を採りました(ハウスクリーニングの利用規約)。
保険と上限は、ヒヤリングで具体的に聞く
ヒヤリングで確かめたこと 保険と賠償の上限
- 賠償責任保険に加入していますか。加入しているなら、保険会社、対物の限度額、免責金額、受託物賠償責任特約の有無を教えてください。家主不在型の民泊の清掃を受ける契約での質問です。注記は「清掃中の物損は必ず起こり得ます。加入状況によって賠償条項の書き方を変えます」です。保険に入っていても受託物賠償の特約がなければ、預かった物件の設備の破損が対象外になることがあります。
- 賠償額の上限は、上限なし、1事故あたり一定額、直近1か月分(又は1回分)の委託料の相当額、のどれにしますか。過去の契約には上限がなく、設備・備品は時価を基準とするとだけ定めていたことを示しました。注記は「故意・重過失の場合まで上限を及ぼすと、事業者どうしでも信義則などを理由に効力を否定されるおそれがあるため、上限の対象から外しておくのが通常です(消費者との契約では無効:消費者契約法8条1項2号・4号)。それ以外について上限を設けることは可能です」です。
- スタッフの業務中の事故には、清掃会社の賠償責任保険で備えますか、スタッフ自身の保険で備えますか。新しく清掃の会社を立ち上げる案件の、スタッフとの契約のヒヤリングで尋ねた事項です。
家主不在型の民泊の契約の回答は「保険は解約済みで未加入」で、その場合の上限の設計はこのページの前の節で紹介したとおりです。
保険の条に書く中身
建物管理の協力会社の契約の改訂では、業務の内容とリスクに応じて請負業者賠償責任保険・生産物賠償責任保険・受託物賠償責任保険その他必要な保険に加入・維持し、種類と保険金額は個別の契約で定める、依頼主は締結時・更新時・個別の契約の成立時に保険証券や付保証明書の提出を求められる、受注者が一人親方なら労災保険の特別加入を証する資料の提出を求められる、保険への加入や保険金の支払は受注者の責任を当然には免除・限定しない、としました。
ホテル清掃の契約の改訂では、清掃会社が業務に必要な人員・体制と責任保険を確保している(又は業務開始までに確保する)ことを表明保証させ、保険は補償の水準を保つ条件で、通知によって保険者・内容を変更できるとしました。相手方の原案は変更のときの手続が不明で、受託者側のレビューで「その都度承認が必要か報告で足りるか読み取れない」と指摘していた点です。委託料(1室あたりの単価と月額の固定)に比べて過大な補償の限度額の保険を求められると、保険料が利益を上回ることもあります。
同じ改訂では、損害賠償の請求は事実を知った日から1年以内とし、契約の解除後の損害も相当因果関係のある通常の損害に限って、代わりの業者を確保する費用は通常かつ合理的な範囲で、清掃会社の負担は上限の範囲内としました。依頼主の指示や、依頼主が提供した設備・情報に起因する損害の免責は、清掃会社が不適切と知りながら通知しなかった場合を除く、という形です。
ご相談と回答 保険の条と通知の条
- スタッフとの契約と利用申込書に、保険の条は必要ですか。
- 新しく清掃の会社を立ち上げる依頼者からのご確認でした。法令上必須の条ではないとお答えし、ご希望どおり削除しました。利用申込書には賠償の上限や営業休止の損害の免責などの責任の範囲を決める条を置いており、保険の条がなくても責任の範囲が決まる構造になっています。
- 通知の条も必要ですか。
- 通知の条も法令上必須ではありません。ただ、解除・催告・更新拒絶など他の条が通知の到達を前提にしているため、宛先と到達の扱いだけを定める簡潔な形で、両方の契約に置きました。
事故のあと、保険会社への連絡より先にスタッフが示談してしまうと、保険金が出ないことがあります。承諾なく責任を認めない・示談しない、という初動の条は鍵・キーボックスのページで紹介しています。
自社の責任を絞る条と、相手の責任を問う条を両方置く
利用申込書での設計上の留意点です。清掃会社の責任を制限する条(上限・営業休止の損害の免責・依頼主の側の責任)とは別に、双方向の一般的な損害賠償の条(契約違反による損害を、合理的な弁護士費用の相当額を含めて賠償する)を置き、「責任制限条項に定める場合はその定めによる」と関係を明記しました。責任を制限する条だけでは、清掃会社の責任の限定は書かれているのに、依頼主の義務違反(未払い、設備の瑕疵、虚偽の表明保証など)による清掃会社の損害の定めが手薄になります。
運営代行の契約(施設側からの依頼)の改訂では、損害賠償を請求するときは書面で内容・金額・根拠を示し、相当の期間を定めて是正又は説明を求める、という手続も置かれました。清掃会社が運営代行・施設の運営会社と契約するとき、相手方の雛形に賠償の範囲の広い列挙があれば、上限と間接損害の除外を交渉の事項にする準備をしておきます(再委託と多層構造)。
よくあるご質問
清掃中に家電を壊したら、どこまで賠償する必要がありますか?
契約で決めた範囲です。事務所の書類では、時価相当額を基準とし、直近の数か月分の委託料などの上限を置き、逸失利益やレビューの低下などの間接損害は故意・重大な過失がない限り負わない、としています。
賠償額の上限を契約書で決めても有効ですか?
事業者どうしの契約では、一般に有効と考えられます。故意・重大な過失の場合は上限の対象外とし、上限が極端に低くならないよう下限額を置くと、有効性を保ちやすくなります。一般の家庭が相手なら消費者契約法の制約を受けます。
賠償責任保険に入っていない場合、契約書で何に注意すべきですか?
上限(下限額付き)、間接損害の除外、請求の期限を置き、依頼主に保険に加入していないことを確認・了承してもらう条を入れます。依頼主の側にも施設の保険への加入に努めてもらいます。
ゲストのレビューの低下を理由に損害賠償を求められたら、応じる必要がありますか?
レビューの低下や予約の取消しは間接損害・特別損害として争われやすい項目です。契約で、故意・重大な過失がない限り負わないと定めておくと、交渉の根拠になります。
エアコンの分解洗浄は、日常清掃の契約に含めてもよいですか?
含めることもできますが、事故のときの責任や保険の議論が日常の清掃に持ち込まれます。参考の別紙やオプションとして、実施の都度見積りと承認を得る形に分けておくのが安全です。
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本ページは一般的な情報提供です。届出・登録・許可の運用は、所管の行政機関や自治体によって異なることがあります。事務所の改訂例・ご相談の事例として紹介している内容は、アトラス行政書士法人が作成・レビューしてきた民泊・宿泊施設の清掃業務委託契約書、清掃スタッフとの業務委託契約書、利用申込書、ハウスクリーニングの利用規約などを、個別の事業者が特定できない形に整理したものです。条文は e-Gov法令検索で確認しています(最終確認日:2026年10月15日)。参考: e-Gov法令検索 / 民泊制度ポータルサイト(観光庁) / 特定商取引法ガイド(消費者庁) / フリーランス法特設サイト(公正取引委員会)