このページの要点
- 写真は業務の記録・追加料金の根拠・品質の確認の目的に限って使い、目的外の利用と第三者への提供をしない。
- 宿泊者名簿の作成と備付けは事業者の義務。清掃会社は名簿を受け取らない設計が基本。
- 忘れ物の発送先の住所は発送の目的に限って使い、精算が終わったら消去する。
- ゲストに起因する費用は依頼主を支払の義務者とし、回収の成否にかかわらず依頼主が払うと定める。
写真は「やった証拠」であり、「最初の証拠」でもある
清掃会社にとって、作業の前後の写真は「やった証拠」であり、汚損や破損を見つけたときの「最初の証拠」でもあります。一方で、室内の写真やゲストの荷物の写真、忘れ物の発送先の住所は、ゲストの個人情報やプライバシーに触れます。事務所の書類では、撮影・利用の目的・保存の期間・忘れ物・ゲストに起因する費用の請求先を決めています。
撮影と報告
家主不在型の民泊の清掃を受ける契約では、作業の前と後の写真を連絡ツールで提出し、送信に制限があるときは短い動画で代えられ、追加料金が生じた作業は状況が分かる写真を一緒に出す、としました(完了の報告と検収)。
清掃中にゲストが荷物を置く場合は、置き場所を指定し、受け入れのときに荷物の状態と保管の状況が分かる写真を撮ること、撮影のときにゲストに趣旨を説明すること、依頼主は清掃の実施・荷物の取扱い・記録のための撮影が行われることをゲストにあらかじめ周知すること、も定めています。ヒヤリングでは、荷物の紛失・破損について清掃会社の責任を故意・重大な過失に限りたいというご希望と、撮影の同意を取るのは依頼主か清掃会社か、を確かめました。
写真の利用の目的と、保存の期間
写真の保存の2つの設計
どちらにするかはヒヤリングの事項です。保存の期間、保存の場所(連絡ツールだけか社内にも保存するか)、宿泊者名簿や予約の情報を共有するかどうかを確かめます。
宿泊者名簿は、作成の日から3年間保存することとされ、記載事項は氏名・住所・職業・宿泊日(日本国内に住所を有しない外国人は、国籍と旅券番号も)です(住宅宿泊事業法8条1項、同法施行規則7条)。名簿の作成と備付けは事業者(管理業者)の義務なので、清掃会社は名簿を受け取らない設計が基本です。家主不在型の民泊の契約では、宿泊者名簿や予約の情報を、業務に必要な範囲を超えて提供しないことを書きました。清掃中に撮った室内の写真をSNSの実績の紹介に使うことも、目的外の利用として禁止する書き方になります。
忘れ物
家主不在型の民泊の契約では、業務に「宿泊者の忘れ物の保管と発送の手続」を含め、忘れ物の発送手数料を料金表に置きました。発送のためにゲストの氏名・住所の提供を受けたときは、発送の目的に限って使い、発送と手数料の精算が終わったら遅滞なく消去する(紛争の解決などで保存が必要な場合を除く)、と書いています。新しく清掃の会社を立ち上げる依頼者のサービス紹介資料では、残置物は原則としてすべて報告のうえ事務所で保管し(飲食物は現地で廃棄)、保管の期限は貴重品と一般の物で分け、国内は着払い、海外は元払い+実費の発送の対応を有料のメニューにしていました。
忘れ物の法律上の扱い
家主不在型の民泊で、清掃会社の事務所で一定期間保管する運用をとる場合は、清掃会社が運営者の補助者として拾ったと評価されるかを含めて、手順を依頼主と決めておきます。
ゲストが汚した場合の費用:請求先は依頼主に固定する
事務所の改訂例 ゲストに起因する費用
請求先
「宿泊者の負担」と書いても、清掃会社はゲストと契約していないので、ゲストに直接請求するのは難しいのが普通です。依頼主を支払の義務者にしておかないと取りはぐれます。
新しく清掃の会社を立ち上げる依頼者のサービス紹介資料では、特別清掃費は「宿泊のマナーの常識を外れた汚損(食べ残しの放置、ゴミの散乱・未分別など)」がある場合に発生し、嘔吐・汚物の処理は時間単位の料金、と発生の要件を書いていました。家主不在型の民泊の契約では、ゲストや第三者の行為に起因する損害は、清掃会社の故意・重大な過失がない限り責任を負わない、とも定めています(損害賠償と保険)。
写真は誰のもので、どこまで使ってよいか
建物管理の協力会社の契約の改訂では、受注者が作成・撮影した報告書・写真・図面・データの著作権は受注者又は作成者に帰属させたうえで、発注者に対し、元請先への報告、物件の管理と社内記録の保存、今後の見積り・業務管理のための参照の範囲で、無償の利用・複製・編集・保存・共有を許諾する形にしました。
清掃会社がスタッフの撮った写真を依頼主に渡す場合も、依頼主がその写真をゲストへの請求や予約サイトへの掲載に使うことまで許すのかを決めておく必要があります。依頼主が清掃の写真を予約サイトの物件写真に無断で使う、というトラブルは、利用を許す範囲を書いていないことから起きます。清掃会社が発注者として個人事業主に委託する契約では、完了の報告に使った写真は、実施の記録と品質の確認の目的に限って利用するとしました。写真を受け取る発注者の側でも、利用の目的を限っておく書き方です。
個人情報の条は、現場で触れる情報ごとに
事務所の改訂例 ホテル清掃の個人情報
個人情報の条
受託者側のレビューでは、紙の宿泊者情報、客室の配置表、忘れ物の管理票、貸与される業務端末、従業員が閲覧する宿泊者の一覧など、現場で扱う情報ごとの管理の方法が読み取れないこと、事故のときの報告の期限・調査への協力・再発の防止・届出・本人への通知の手順がないことを指摘しました。
建物管理の協力会社の契約の改訂では、安全管理の措置を「取り扱う従業者を必要な範囲に限る」「資料・媒体・データへのアクセスを制限する」「必要な範囲を超えて複製しない」と具体的に並べ、再委託には承諾を要して同等の義務を課す、漏えいのときは法令の報告期限に間に合うよう資料を出す、としました。
新しく清掃の会社を立ち上げる依頼者の利用申込書では、個人情報の定義に「ゲストの氏名その他対象施設の利用状況に関する情報を含む」と書き、清掃会社がゲストの情報に触れることを前提にしています。提案書では、清掃会社からスタッフへの情報の提供が個人情報の取扱いの委託に当たり得る場合は、委託先の監督(個人情報保護法25条)の条も整えると示しました。スタッフの私物のスマートフォンに室内の写真やゲストの荷物の写真が残り続ける、という問題も起きがちです。
契約の終了と、保管期限を過ぎた忘れ物
ホテル清掃の契約の受託者側レビューでは、相手方の原案の契約終了の条が貸与品の返還だけを定めていて、返還のときの確認の方法(改訂で置いた立会いの手順は鍵・キーボックスのページで紹介しています)と、業務報告書・写真データ・清掃の履歴など電子的に管理する記録を終了後に削除するのか保存するのかが決まっていない、と指摘しました。改訂では、終了のときに清掃会社は依頼主の指示に従い、交付された資料と業務の過程で作成した記録(電磁的記録を含む)を返還又は廃棄する、既に履行した業務の委託料の支払の義務は終了しても免れない、としました。写真の保存の期間を定めない設計を採る民泊の契約でも、契約が終わったときの扱いは別に決めておく必要があります。
新しく清掃の会社を立ち上げる依頼者のサービス紹介資料は、残置物の保管の期限を貴重品とそれ以外で分けていましたが、期限を過ぎた物をどう処分するかまでは書かれていませんでした。家主不在型の民泊で誰が拾得者として扱われるかという問題と合わせて整理しておかないと、保管の期限が過ぎた後に、ゲストから返却を求められて困ることになります。宿泊施設の運営会社が示した原案を受託者側でレビューした案件では、忘れ物の着払いでの発送の手続を清掃会社の業務に含めていました。保管だけでなく、発送・処分のどこまでを業務とするかを、料金表と合わせて決めておきます。
運営代行の契約(施設側からの依頼)の業務内容の実施要領では、チェックアウト後の状態の確認として「遺失物の確認と対応(遺失物法に基づく処理)」が運営代行の業務に入っていました。運営代行の下で清掃する場合は、忘れ物の法的な処理を運営代行の側の業務とし、清掃会社は発見・報告・引渡しを担う、という分担を検討する余地があります(再委託と多層構造)。
報告は「開始・作業中・完了」か、「完了後に前後の写真」か
同じ清掃会社が受託者となった二つの契約を並べると、報告の時点と中身の決め方が違います。
報告の決め方の比較
後者は、ヒヤリングで依頼者の同意書の運用(作業前後の写真をグループのLINEに出し、送信に制限があるときは1分の動画に切り替える)のとおりでよいかを確かめ、その運用を条文にしたものです。
後者の契約は、報告の写真を完了後の前後の写真に絞る一方で、追加料金が生じた作業だけは状況の分かる資料を必ず添える形です。追加料金の根拠となる写真が完了の報告と同じ場所に残るので、月末の請求のときに、どの回のどの作業かを連絡ツールの記録からたどれる作りです。
写真は「秘密情報」の例に挙げておく
運営代行の契約を施設の側からレビューした案件では、守秘義務の条の「秘密情報」の定義があいまいだとして、宿泊者名簿、予約システムのアカウント情報、パスワード、写真、契約書類などを明記すべきだと指摘しました。あわせて、運営代行が再委託先(清掃業者など)に秘密情報を開示する場合の管理の責任が書かれていないとして、再委託先にも同じ水準の守秘義務を課す義務を明文化するよう求めています。同じ契約では、運営代行が作成して施設に提出する報告書・写真・記録・ファイルを「業務成果物」と定義していました。
上位の契約がこの指摘のとおりに作られていれば、運営代行の下で清掃する清掃会社にも、室内の写真を秘密情報として扱う同じ水準の義務が求められる形になります。清掃会社が自社の契約で写真の利用の目的と保存の場所を限っておくことは、上位の契約の義務と自社の扱いをそろえることにもなります(再委託と多層構造)。
よくあるご質問
清掃前後の写真は、どれくらいの期間保存すべきですか?
保存の期間を定めず削除の求めに応じる設計と、一定期間(半年など)で廃棄する設計があります。いずれも、利用の目的を業務の記録・追加料金の根拠・品質の確認に限り、紛争中は消さないことを書いておきます。
清掃中に撮った室内の写真を、実績の紹介に使ってもよいですか?
依頼主との契約で目的外の利用を禁止しているなら使えません。実績の紹介に使いたい場合は、物件やゲストが特定されない形で、依頼主の承諾を得てからにします。
ゲストの忘れ物を見つけたら、どう対応すればよいですか?
常駐の管理者がいる施設なら施設側に引き渡します。民泊では、報告・保管・発送の手順と手数料を契約で決めておき、発送先の住所は発送の目的に限って使い、終わったら消去します。
ゲストが汚した部屋の清掃費は、ゲストに直接請求できますか?
清掃会社はゲストと契約していないので、直接の請求は難しいのが普通です。契約で依頼主を支払の義務者とし、ゲストから回収できたかどうかにかかわらず依頼主が払うと定めておきます。
忘れ物の発送先の住所は、発送後どうすればよいですか?
発送の目的に限って使い、発送と手数料の精算が終わったら遅滞なく消去する、と契約に書いておきます。紛争の解決などで保存が必要な場合だけ例外にします。
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