このページの要点
- 見積書・同意書などの前提資料は、契約締結日以後は契約の内容として効力を持たないと完全合意の条で明記する。
- 追加料金は、内容・理由・見積額を示して承認を得た場合に限り実施し、緊急時だけ事後の報告とする。
- 料金表の改定だけは日常の連絡ツールでの合意でも効力を生じる、と例外を置く。
- 料金の改定は「協議のうえ改定できる」で終わらせず、申入れの事由と協議を拒否しない旨を書く。
料金の項目は多く、資料は食い違いがち
民泊清掃の料金は、基本料金のほかに、繁忙期・シーズンの加算、リネンの追加、レイトチェックアウト・アーリーチェックイン、汚損のときの特別清掃、緊急対応、購入の代行、忘れ物の発送など、項目が多くなります。しかも依頼者の手元では、見積書・同意書・サービス紹介資料・過去の契約書が別々にあって、数字が合っていないことが珍しくありません。
家主不在型の民泊の清掃を受ける契約のヒヤリングシートでは、第1章を「最優先の確認事項(資料の相互の食い違い)」とし、次の7点を確定させてから起案しました。
ヒヤリングで確かめたこと 資料の食い違いの7項目
- 緊急対応費の金額は、どちらに統一しますか。同意書には一律の金額、別紙には「物の破損の対応は幅のある金額+業者の請求分、電球の交換は商品代+作業費、深夜の対応は1名あたりの定額」と、二通りの記載がありました。
- 幅のある金額は、どう決めますか。幅のある項目は事後に争いになりやすいので、「事前に見積りを示し、承認(メッセージでも可)を得て確定」か、時間・人数による定額の表かを選んでいただきました。
- 消費税は、税込で統一しますか、税抜+別途消費税ですか。見積書は税抜、同意書・別紙は税抜か税込か分かりませんでした。
- シーズンの加算は、清掃1回あたりですか、1泊(1日)あたりですか。過去の契約は1日あたりでした。月の請求額が大きく変わります。
- 追加料金の上限を設けますか。過去の契約には1回あたりの上限がありましたが、緊急対応費や業者の請求分と整合しません。
- 同意書をどう位置づけますか。同意書と契約書を二重に交わすと、食い違ったときに解釈が割れます。別紙として一体にするか、金額は全部契約書に書くか、併存させて契約書の優先を明記するか、を選んでいただきました。
- 解約・更新拒絶の予告期間は、どちらに合わせますか。同意書と過去の契約で期間が違っていました。
回答に基づき、この契約では「税抜の表記+別途消費税」「シーズンの加算は清掃1回あたり」「追加料金の上限は設けず、すべて事前の承認」「同意書は使わず、金額は全部契約書(料金表)に書く」と確定しました。さらに完全合意の条で、見積書・同意書・緊急対応費の書面(「前提資料」として定義)は、契約締結日以後、契約の内容を補充し又はこれと異なる合意として効力を持たない、と明記しています。
ご相談と回答 過去の契約と同じ内容で
- 以前の契約と同じ内容で、金額だけ今回の見積りのとおりにしてほしいのですが。
- 見積書・同意書・緊急対応費の資料が互いに食い違っていたため、契約書に書く金額と条件が決まらない7項目を最優先で確認させていただきました。空欄の項目は、過去の契約を踏襲するか、受託者に不利にならない一般的な内容で起案して注記する、とご案内しました。
料金の条の作り方
| 項目 | 書き方 |
|---|---|
| 追加料金 | 作業の内容・理由・見積額を示し、承認(連絡ツールによるものを含む)を得た場合に限り実施。被害の拡大を防ぐため緊急に必要で承認を得る余裕がないときは実施でき、事後速やかに報告し、依頼主は合理的な理由なく承認を拒まない |
| 幅のある緊急対応費 | 見積りの承認で確定する |
| 時間で数える料金 | レイトチェックアウト・アーリーチェックインの料金は、本来のチェックアウト・チェックインの時刻から起算し、1時間未満は1時間に切り上げ、前日までの申請でも同じ額 |
| 簡易清掃 | 予約の間隔が空いたときの湿気・かび・ほこりの対策は、依頼主の指示があった場合に限り実施(ヒヤリングで「依頼主の指示のみ/清掃会社の提案+承認/一定日数で自動」の三択を確認) |
| 加算の重複 | ハイシーズンの期間の日は、ハイシーズンの加算だけを適用 |
| 交通費・値引き | 交通費は基本料金に含む。回数による値引きはしない。他の物件は別の契約 |
| 業務量の変化 | 間取り・定員・設備・稼働の状況に著しい変更があったときは改定を協議 |
| 料金表の改定 | 契約の変更は書面又は電磁的方法が原則だが、料金表の改定だけは日常の連絡ツールでの合意でも効力を生じる |
最後の「料金表の改定だけは連絡ツールの合意でも有効」は、清掃会社が受託者の契約でも、発注者の契約でも置きました。物件の追加や季節の料金の見直しのたびに書面を作り直すのは現実的でない一方、契約全体の変更まで連絡ツールで済むようにすると、何が合意されたのかが分からなくなるからです。
料金の改定の条を「協議できる」で終わらせない
事務所の改訂例 ホテル清掃の料金の改定
改定の条
「改定することができる」では改定の義務がなく、最低賃金や資材の価格が上がっても据え置かれ得ます。人件費の比率が高いホテル清掃では、改定の条は極めて重要です。
追加業務
仕様の解釈しだいで、追加の作業が仕様の範囲内とされるおそれがありました。
追加料金の上限をめぐって
清掃会社が受託者となった別の案件で、相手方が示した原案には、1回あたりの追加料金・特別費用の合計に上限がありました。受託者側のレビューでは、大量のゴミや汚損の場合に作業のコストを下回る可能性を指摘しました。その後の同じ依頼者の契約では、緊急対応費や業者の請求分との整合をヒヤリングで確認したうえで、「上限なし・すべて事前の承認」に移っています(依頼者の回答による)。
運営代行の契約を施設側から依頼を受けてレビューした案件では、運営代行側の実費は事前の書面の承諾がある場合に限り施設側が負担し、夜間などで承諾が得られないときの少額の支出はみなし承諾とする設計が採られました。清掃会社が運営代行から清掃を受ける場合も、同じような「事前の承諾+少額のみなし承諾」が求められ得ることを前提にしておきます(立替えの精算)。
料金の支払の時期は、清掃会社自身がフリーランス法で守られる立場になる場合の論点にも関わります(清掃スタッフとの業務委託)。
払われないまま清掃を続けないための条項
家主不在型の民泊の清掃を受ける契約では、依頼主は清掃会社に対する債権(たとえば破損の賠償の請求)で、清掃料金の支払と相殺できない、としました。清掃会社が発注者として個人事業主に委託する契約では、双方とも相殺を禁止しています。破損の賠償の額を一方的に差し引いて支払われる、という事態を防ぐ条です。
あわせて、依頼主が支払を一定回数以上遅らせ、又は遅れている額が委託料の一定月数分を超えたときは、遅れが解消するまで個別の業務の受託を停止でき、停止による依頼主の損害は負わない、としました。新しく清掃の会社を立ち上げる依頼者のサービス紹介資料にも、期日までに振込みがない場合は催促のうえ以降の清掃を取りやめることがある、という運用が書かれていました。
ご相談と回答 遅延損害金
- 利用申込書に、遅延損害金を入れてもらえますか。
- 新しく清掃の会社を立ち上げる依頼者からのご依頼で、支払期日の翌日から年14.6%の遅延損害金の条を利用申込書に新設しました。スタッフとの契約ではなく、清掃会社が代金を受け取る側の契約に置いた点がポイントです。同じ機会に、保険の条と通知の条の要否についてもご確認がありました(損害賠償と保険)。
変更の協議が整わないときは「変更前のまま」
事務所の改訂例 ホテル清掃の契約内容の変更
協議が整わないとき
受託者側のレビューでは、原案のままでは「協議はしたが合意に至らず従前どおり継続」とも「変更内容に従わなければ契約違反」とも読める、と指摘しました。
改装で客室が増えたのに、協議が整わないまま旧料金で増えた客室も清掃させられる、という場面を想定した書き方です。
ヒヤリングで詰めた細部と、請求書の期限
家主不在型の民泊の契約のヒヤリングシートでは、多くの設問に依頼者の過去の契約の内容を併記し、「同じでよいか」を選んでもらう形にしました。回数による割引(過去の契約は、月に一定回数以上で月の合計から一定割合を値引き)は「設けない/設ける(条件)」、キャンセル(過去の契約は数日前まで無償・2日前〜前日は一定割合・当日は全額・日程の変更は1回まで無償)は「同じ/変更」、締めと支払(過去の契約は毎月初旬までに前月分を請求し、請求書の作成日の翌月末までに支払)は「同じ/変更」、遅延損害金は「年14.6%/その他/定めない(定めがないと法定利率)」、という具合です。回答で、回数による値引きは行わないことを条文にし、キャンセルは前日まで無償・当日は全額に変わりました(依頼・キャンセル)。過去の契約の数字を設問の中に見せておくと、依頼者は「何が変わるのか」を確かめながら選べます。
資料の食い違いの確認の結果を条文に落とす際には、細部も詰めました。消費税の条では、金額は別段の定めがない限り消費税の相当額を含まず、税率が変わったときは変更後の税率による、と書いています。シーズンの加算は、期間を季節ごとに日付で特定し、加算分を宿泊料金に転嫁するかどうかは依頼主の責任としました。解約・更新拒絶の予告期間は、ヒヤリングシートで「清掃会社の人員手配の観点からは長い方が有利」と注記して選んでいただき、3か月前となりました。
清掃会社が発注者として個人事業主に委託する契約では、受注者が請求書を作成・提出する方式を採っています(清掃スタッフとの業務委託)。依頼者の運用を確かめたうえで、請求書の提出期限を「翌月の初旬まで」とし、受注者が請求書を準備する余裕を確保しました。支払期日(業務を実施した月の翌月末)は変えていません。
請求書に書く「稼働した時間」は、時給制が適用される回(発注者のヘルプスタッフが同行したとき)に限ると明記し、出来高制の回に不要な記載を求めないようにしました。請求の条は契約の終了後も存続させ、終了した月の分を請求できなくならないようにしています。請求書の期限が月末の当日だと、スタッフの側の請求が毎月遅れ、支払も遅れる、ということが起きがちです。
よくあるご質問
見積書と契約書の金額が違うとき、どちらが優先しますか?
契約書で優先関係を決めておきます。事務所の書類では、見積書・同意書などを「前提資料」と定義し、契約締結日以後は契約の内容を補充し又はこれと異なる合意として効力を持たない、と完全合意の条で明記しています。
追加料金は、事前の承認がないと請求できませんか?
契約で事前承認制にしておけば、承認のない追加料金は請求しにくくなります。被害の拡大を防ぐため緊急に必要な作業は承認なしで実施でき、事後に報告する、という例外を書いておきます。
繁忙期の加算は、契約書にどう書けばよいですか?
加算が清掃1回あたりか1泊あたりかを明記し、ハイシーズンとシーズンの加算が重なる日の扱い(ハイシーズンの加算だけを適用するなど)も決めます。
最低賃金が上がったら、清掃料金の値上げを求められますか?
改定の条に、最低賃金の改定などの申入れの事由と、正当な理由なく協議を拒否しない旨を書いておくと、交渉の根拠になります。「協議のうえ改定することができる」だけでは改定の義務がありません。
料金表だけLINEで変更してもよいですか?
契約で「料金表の改定は日常の連絡ツールでの合意でも効力を生じる」と例外を置いておけば可能です。契約全体の変更は書面又は電磁的方法で行う原則を残します。
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