このページの要点
- 管理業務、ゴミの持ち帰り・運搬、規模のある修繕や工事は、清掃とは別に登録・許可が関わる。契約書で業務の範囲を限る。
- 取引先は、個人オーナー、運営代行・管理業者、ホテル、スタッフの4種類で立場が変わる。開業直後は受ける側の弱い立場から始まる。
- 設立登記の前に法人の名で契約を済ませない。個人で先に始めるなら、法人への契約上の地位の移転を契約書に織り込む。
- 最初に、依頼主との契約書とスタッフとの業務委託契約書をそろえ、保険の加入を契約より先に済ませる。
民泊清掃の開業に、清掃そのものの許可は要らない――ただし線が3本ある
民泊の清掃会社を始めるとき、最初に気になるのは「許可や免許が要るのか」でしょう。結論から言うと、清掃の作業をすること自体を対象にした許可や免許の制度は、一般にはありません。建築物における清掃を行う事業については、都道府県知事の登録の制度がありますが、「登録を受けることができる」という任意の制度です(建築物における衛生的環境の確保に関する法律12条の2第1項)。登録がなければ営めないというものではありません。
ただし、清掃の仕事を受けていると、依頼主から「ついでにこれもお願い」と頼まれる場面が来ます。その「ついで」が、許可や登録の要る業務に踏み込んでいることがあります。許可が要る業務との線は、次の3本です。
| 引き受けそうになる業務 | 関わる制度 | 契約書での扱い |
|---|---|---|
| 宿泊者への説明、周辺住民からの苦情への対応、宿泊者名簿の備付け、届出住宅の維持保全など | 住宅宿泊管理業の登録(国土交通大臣。住宅宿泊事業法22条1項)。管理業務の定義は同法2条5項 | 業務を清掃と直接付随する作業に限り、含まないものを列挙する(管理業との境界) |
| ゴミを施設の外へ持ち帰って処分する、運ぶ | 一般廃棄物の収集・運搬の許可(市町村長。廃棄物処理法7条1項) | 分別して所定の場所に置くまでを業務とし、搬出と処分は依頼主とする(ゴミ・廃棄物) |
| 規模のある修繕や、設備の取付け・交換の工事 | 建設業の許可(建設業法3条1項。政令で定める軽微な工事のみを請け負う場合を除く) | 電球の交換のような軽微な作業までに限り、工事は別の契約とする(業務範囲) |
| 建築物の清掃を事業として行うこと自体 | 建築物清掃業の登録は任意(建築物衛生法12条の2第1項) | 登録の有無は、取引先に説明する材料の一つ。契約の成立要件ではない |
建築物清掃業の登録を受けるかどうかは、取引先から求められるか、事業の規模をどう考えるかで判断します。登録は営業所ごとに受けるもので(同条1項)、設備や従事者の資格などの基準は厚生労働省令で定められ(同条2項)、有効期間は6年です(同条4項)。取引先が登録を求めていないのに、開業の準備の段階で急いで取る必要は、通常はありません。
契約書の書き方としては、「やること」に加えて「やらないこと」を書くのが基本です。開業前の営業資料にこれらの業務を載せてしまうと、契約書で限っても、資料の言葉が依頼の根拠として使われます。営業資料を作る段階から、この3本の線を意識しておくと、後の修正が少なくて済みます。
最初に確かめる、取引先の種類と自社の立場
開業した清掃会社の取引先は、おおむね次の4種類に分かれます。取引先の種類によって、契約書の出どころ、自社の立場、確かめる点が変わります。
取引先の種類ごとの、自社の立場
個人のオーナー
- 契約書は、自社が用意するのが基本
- 自社は受注者
- 届出・許可の確認と、依頼主が事業者か消費者かの確認が最初の点
申込書の形をとるかは、成立の時を決めてから。
運営代行・管理業者
- 契約書は、相手が用意することが多い
- 自社は再委託先。上の契約の影響を受ける
- 上の契約が終わったときの精算と、情報を渡す範囲を確かめる
相手の書式を受けるときは、含まれない業務の列挙と上限条項を点検する(再委託と多層構造)。
開業した直後の清掃会社は、受ける側の弱い立場から始まることが多くあります。個人事業主として始める場合、あるいは代表者のほかに役員も従業員もいない法人で始める場合は、取引先との関係で、「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」(フリーランス法)の「特定受託事業者」に当たります(同法2条1項)。取引先が、従業員を使用する個人、又は従業員を使用し若しくは2人以上の役員がいる法人であれば、その取引先は「特定業務委託事業者」(同条6項)に当たります。取引条件の明示(3条)はすべての業務委託事業者に、支払期日(4条)、報酬の減額などの禁止(5条)、継続的業務委託の解除・不更新の予告(16条)は特定業務委託事業者に課される規律です。それぞれ対象となる業務委託の期間などの要件があるため、条文と政令で確かめます(各規律の整理は清掃スタッフとの業務委託のページにあります)。
開業時にできることは、取引先から書面を受け取って、明示の事項がそろっているかを確かめることです。3条の明示事項は、公正取引委員会規則で定められており、当事者の名称、委託した日、給付の内容、役務の提供を受ける期日と場所、報酬の額と支払期日などが並びます。口頭やチャットだけで仕事が始まっているときも、その内容を書面や電磁的方法で出してもらうよう依頼しておきます。なお、取引先の資本金や従業員の数が一定の区分に当たるときは、中小受託取引適正化法(取適法。2026年1月1日から、旧称は下請法)の適用も考えられます(同法2条8項・9項)。対象となる役務の範囲には政令の定めがあるため、取引先ごとに確かめる必要があります。
小規模な清掃会社が「受ける側」と「出す側」の両方になる場面があることは、開業の段階から頭に置いておきます。開業時の準備としては、次の問いを一つずつ確かめておくと、書類の抜けが減ります。
確かめる問い(一般的な例):開業の準備で確かめる問い
- 自社は、個人事業主と法人のどちらで始めるか。従業員や役員を置く予定はあるか。従業員や役員の有無で、取引先との関係で適用される法律の見え方が変わります。始めた後に変わったときも、契約書の書式を見直す前提になります。
- 引き受ける業務の範囲を、書面にして先に決めたか。「やること」と「やらないこと」を先に決めておくと、営業用の資料にも、契約書にも、同じ範囲を書けます。
- 取引先から受け取る書面の種類は、何を想定しているか。取引先の書式、自社の書式、発注書やチャットのやり取りのうち、何を契約の根拠とするかを、最初の取引の前に決めておきます。
- 報酬の請求と入金の時期は、どのように決めるか。請求の締切日、支払期日、振込の手数料の負担を、自社の資金の動きに合わせて確認します(消費税の扱いも明記します)。
- 事故やクレームが起きたとき、最初に誰へ何を連絡するか。依頼主への連絡の期限、写真の撮り方、保険会社への連絡の順序を、現場のスタッフに共有しておきます。
設立登記の前後で、契約の当事者をどう書くか
会社を作って清掃業を始める人は、会社の設立の手続の途中で、取引先から契約書を求められることがあります。株式会社は、本店の所在地で設立の登記をすることによって成立します(会社法49条)。合同会社などの持分会社も同じです(同法579条)。つまり、登記が終わるまで、その会社は法人としては存在していません。
登記前に契約書の署名が必要になったときの選択肢は、おおむね次の3つです。
設立登記の前後の、契約の結び方
個人で先に始めて、あとから法人にするなら、契約書に、法人への移転を認める条を置いておく書き方があります。
業務委託契約 第◯条(契約上の地位の承継)
1乙は、本契約の期間中に、乙の事業を承継する法人を設立したときは、甲に通知したうえで、本契約に基づく契約上の地位を当該法人に承継させることができる。
2甲は、前項の承継を、あらかじめ承諾する。ただし、承継を受ける法人は、本契約の義務を承継し、乙は承継の後も、承継前に生じた義務について責任を負う。
相手方の承諾が要る契約上の地位の移転(民法539条の2)を、契約の当初に承諾しておく形です。取引先によっては、承継のたびに改めて同意を求めたいと考えるため、通知の方法や承継を拒める場合を書き加えることもあります。
登記前の当事者の表示、成立の時期の決め方については、管理業との境界のページの「申込書の形をとるなら」の節でも取り上げています。ここで押さえたいのは、「登記の前に法人の名で契約を済ませない」ことと、「個人で先に始めるなら、法人への移転を契約に織り込んでおく」ことの二つです。
もう一つ、定款の事業の目的も、開業前に見ておく点です。目的は定款の記載事項で(会社法27条1号)、設立の登記でも登記されます(同法911条3項1号)。清掃のほかに、民泊の運営や修繕、物品の販売を目的に書いておくと、将来の事業の拡張のときに定款を変更する手間が省けます。目的を後から変えるには、株式会社の場合、成立後に株主総会の決議で定款を変更し(同法466条)、変更の登記をします。
ただし、目的に書いてあることと、その事業を営めることは別です。目的に管理業や工事を書いても、登録や許可を受けていなければ営めません。目的は事業の方向を示すものとして、許可・登録の要る業務については、取得してから営業に出す、という順序を守ります。
最初にそろえる2つの契約書
開業時にまず必要なのは、2つの契約書です。1つは、依頼主との契約(利用申込書又は業務委託契約書)、もう1つは、スタッフとの業務委託契約書です。
開業時の2書類に、入れておく中身
書類を作る順番は、取引の流れに合わせると迷いません。最初の依頼を受けてから、スタッフに出すまでの間に、次の順で用意します。
開業から最初の取引までの書類の順番
- 1. 取引先の確認依頼主が個人オーナーか、運営代行か、ホテルかを確かめる。届出番号の通知書や許可書の写しの提出を依頼する
- 2. 依頼主向けの契約書業務の範囲、料金、キャンセル、責任の上限を決めて、契約書か申込書の形にする
- 3. スタッフ向けの契約書自社で作業しない案件があるなら、受ける人との契約を結んでから現場に入れる
- 4. 物件ごとの情報鍵の方式、暗証番号の管理、ゴミの出し方、基準の写真などを、物件ごとの登録票にまとめる
- 5. 保険の加入と確認契約を結ぶ前に加入し、取引先から求められたときに加入の証明を出せるようにする
依頼主が複数の物件を持っているときは、個別の契約を物件ごとに結ぶか、包括的な契約を1本結んで、物件を登録していく方式にするかを選びます。物件が増える見込みなら、最初から包括契約にしておくと、契約書を物件のたびに作り直さずに済みます。この方式の注意点は、管理業との境界のページで整理しています。
確かめる問い(一般的な例):包括契約か、個別契約かを選ぶ問い
- 依頼主が持つ物件は、今後何件ぐらいに増える見込みですか。2〜3件で止まるなら個別でも足ります。増える見込みなら、物件の登録の仕組みを持つ包括契約が向きます。
- 物件ごとに、料金や条件が変わりますか。変わるなら、物件ごとの条件を別紙の登録票に書く設計にします。
- 1件の問題で、全部の取引を止めたくないですか。物件単位で解除できる条を置くと、1件の届出の失効で全物件が止まる事態を避けられます。
最初の依頼を受ける前に、依頼主に聞く6つの問い
契約書を作る前に、依頼主に確かめておくと、契約書の条文が実態に合います。開業直後は、取引の前提を聞き漏らしたまま見積りを出し、後で条件が食い違うことが多いので、最初の依頼のときに、次の6つを聞きます。
確かめる問い(一般的な例):最初の依頼で聞く6つ
- 民泊の形態は、住宅宿泊事業、簡易宿所、特区民泊のどれですか。届出番号の通知書又は許可書の写しは出せますか。依頼主が適法に営んでいるかを確かめる出発点です。確認する書類と、表明保証の内容が変わります。
- 家主は物件に住んでいますか、不在ですか。不在の場合、管理業者に委託していますか。家主不在型では、管理業務を住宅宿泊管理業者に委託するのが法律上の原則です(住宅宿泊事業法11条1項)。自社の業務の範囲と、窓口になる相手が変わります。
- 物件は何件で、今後増えますか。個別の契約で足りるか、物件を登録していく包括契約が向くかを決める材料です。
- 入退室の方法は、キーボックス、スマートロック、対面の受け渡しのどれですか。鍵と暗証番号の管理、入れなかったときの扱いの条文が変わります(鍵・キーボックス)。
- チェックアウトからチェックインまでの時間は、おおむねどのくらいですか。完了の期限と、間に合わないおそれがあるときの連絡の手順を決める前提です(依頼・キャンセル)。
- リネンと消耗品は、誰が用意し、洗濯はどこで行いますか。料金に含めるか、実費で精算するかを決める前提になります(リネン・消耗品)。
聞いた答えは、物件ごとの登録票に書き残しておくと、契約書の別紙と、現場のスタッフへの引継ぎの両方に使えます。
開業時の保険と、責任の上限をそろえる順序
清掃の仕事は、料金に比べて損害が大きくなり得ます。設備の破損、水漏れ、貴重品の紛失などです。開業時に決めておきたいのは、保険に入ることと契約で責任の上限を置くことの順序です。詳細は損害賠償と保険のページで扱っています。ここでは、開業のタイミングで気をつけたい4点にしぼります。
- 保険は、最初の契約を結ぶ前に加入する。加入していない期間の事故は、自社が全額を負担する前提になる。
- 保険の補償の対象になる作業と、ならない作業は、約款で確認する。対象外の作業は、契約の業務から外すか、別見積りにする。
- 契約の責任の上限は、料金に見合った額にし、保険の限度額との関係を意識して決める。上限がなければ、保険の限度を超える損害を自社が負う。
- 取引先によっては、加入の証明の提出を求められる。証券の写しをすぐ出せるようにしておく。
保険に入らないまま始める場合には、契約の側で責任の上限、損害の範囲、請求の期間を絞っておく必要が高まります。保険に入ると決めたなら、その保険でカバーされる範囲と、契約で引き受ける業務の範囲を、できるだけそろえます。
事業を広げる段階ごとに、書類を足していく
開業した清掃会社は、最初の2書類で動き出しても、事業が広がるにつれて、書類と確認事項が増えていきます。段階ごとに、何が増えるのかを先に見ておくと、準備が前倒しできます。
事業の段階ごとに足す書類(一般的な例)
- 1人で受注依頼主との契約書。保険。取引先から受け取る明示の書面
- スタッフを入れるスタッフとの業務委託契約書。報酬の支払期日。労働者と見られない運用
- 取引先が増える包括契約と物件の登録票。上位の契約が終わったときの精算。情報を渡す範囲
- 家庭向けの掃除も受ける消費者向けの規約。訪問販売とクーリング・オフ。消費者契約法(ハウスクリーニング)
- 管理・修繕に広げる住宅宿泊管理業の登録。建設業の許可。清掃の契約とは別の契約の類型
管理や修繕に広げる段階では、清掃の契約をそのまま流用せず、業務の性質に合わせた契約を別に用意します。
将来に独立する人を育てて仕事を回す仕組みを考えるなら、独立支援(卒業型)の契約書の論点も、早めに確認しておくと安心です。
開業の準備では、契約書よりも先に、営業用の資料やホームページの文言が出来上がることがよくあります。資料の言葉は、依頼の根拠として使われます。「まるごとお任せ」「何でも対応」のような言い方は、契約書で業務を限っていても、依頼主が頼んだ根拠になりかねません。資料を作るときは、契約書に書く業務の範囲と、含まない業務の列挙を、先に決めておきます。そして、その範囲を超える内容を載せないようにします。載せるなら、別料金で別の契約になることを明記します。
よくあるご質問
民泊の清掃会社を始めるのに、許可や免許は必要ですか?
清掃の作業そのものを対象にした許可や免許は、一般にはありません。建築物清掃業の登録は「受けることができる」任意の制度です。ただし、管理業務、ゴミの運搬、規模のある修繕や工事に踏み込むと、それぞれ登録や許可が関わります。
会社の設立登記が終わる前に、取引先と契約してもよいですか?
会社は登記によって成立するため、登記前は法人として存在しません。登記を待って法人の名で結ぶか、個人事業主として先に結んで、法人ができたら契約上の地位を移す方法があります。移すには相手方の承諾が要るため、契約書に承継の条を置いておく書き方があります。
最初にそろえる契約書は何ですか?
依頼主との契約書(利用申込書又は業務委託契約書)と、スタッフとの業務委託契約書の2つです。物件が増える見込みなら、依頼主との契約を包括契約にして、物件を登録していく方式を選びます。
個人事業主として始めると、取引先との間でフリーランス法の保護を受けられますか?
従業員を使用しない個人事業主は、フリーランス法の特定受託事業者に当たります。取引先が特定業務委託事業者(従業員を使用する個人、又は従業員を使用し若しくは2人以上の役員がいる法人)であれば、書面等による取引条件の明示、60日以内の報酬の支払、継続的な業務委託の解除前の予告などの規律が取引先にかかります。対象となる業務委託の期間などの要件は、条文と政令で確かめます。
保険と契約の責任の上限は、どちらを先に決めますか?
先に保険に加入し、その補償の範囲を確かめたうえで、契約の業務の範囲と責任の上限を決めます。保険の対象外の作業は、契約の業務から外すか別見積りにし、加入の証明を求められたときに出せるようにしておきます。
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本ページは一般的な情報提供です。届出・登録・許可の運用は、所管の行政機関や自治体によって異なることがあります。紹介している書き方は、民泊・宿泊施設の清掃に関する一般的な契約実務を整理した例であり、特定の事業者の契約書を示すものではありません。条文は e-Gov法令検索で確認しています。参考: e-Gov法令検索 / 民泊制度ポータルサイト(観光庁) / 特定商取引法ガイド(消費者庁) / フリーランス法特設サイト(公正取引委員会)