このページの要点
- ゲストの入替えの清掃は準委任(民法656条)、仕上がりを引き渡す清掃は請負になじむ。
- 営業開始前と初回の清掃後に撮影した基準の写真で「きれい」を決め、経年の変化などは対象外にする。
- 品質の異議は次のチェックインの時刻までとし、申出がなければ完了とみなす。
- 再清掃は清掃会社の責めによる不備だけを無償とし、それ以外は料金表で有償にする。
清掃の「出来」は主観で争われやすい
「髪の毛が落ちていた」「水回りがくもっていた」。清掃の出来は、見る人によって評価が分かれます。事務所の書類では、次の4点を契約書で決めています。
- 契約の類型:請負(仕事の完成)か、準委任(事務の処理)か。
- 清掃の基準:何をもって「きれい」とするか、基準の対象外は何か。
- 完了の報告と検収の期限:いつまでに異議を言わなければ完了とみなすか。
- 再清掃の有償・無償:清掃会社の責めによる場合だけ無償か。
請負か準委任か
民泊清掃の契約では、民法上の準委任(民法656条)と明記した例が多くあります。清掃と付随する現地の作業を、受注者が独立の事業者として自分の裁量で行うものとし、毎回の現地の作業・一次対応・立会いを含むため、「完成」という考え方になじみにくいからです。
集合住宅の建物管理の協力会社の契約のレビューでは、清掃を工事と並ぶ「完成型(請負)」、点検・巡回を「実施型(準委任)」と分類し、是正を求める要件を書き分けるよう提案しました。請負の目的物の不適合については、請負人に落ち度があるかどうかにかかわらず追完(やり直し)を求められ、落ち度が問題になるのは損害賠償の場面だけです。これに対して準委任は結果を保証する契約ではなく、債務を果たしたかどうかは善良な管理者の注意(民法644条)を尽くしたかで判断されます。原状回復の清掃のように「仕上がり」が引渡しの対象になるものは請負型、ゲストの入替えの清掃のように毎回の事務の処理として行うものは準委任型、と分けて考えることができます。
清掃の契約の類型
準委任と書いても、清掃の基準・検収・再清掃のルールを書かなければ紛争の予防になりません。
清掃の基準を「写真」で決める
家主不在型の民泊の契約では、清掃の基準を「営業開始前の状態」とし、その状態を記録するため、営業開始前と初回の清掃後に清掃会社が施設内を撮影する(基準の写真。撮影のための訪問は無償)、としました。経年の変化、通常の使用による摩耗・汚損、設備の故障、清掃の方法では落とせない汚れ・しみ・臭気・かびは基準の対象外とし、見つけたら報告し、除去は協議する、と書いています。清掃会社が発注者となる契約でも、基準を「通常の使用に適する状態」とし、同じ対象外を置きました。
事務所の改訂例 ホテル清掃の品質の基準
履行の完了
どの状態で履行が完了したのか、品質の判断の基準が明確でないと、依頼主の独自の基準で再清掃を求められます。
完了の報告と、検収の期限
清掃業務委託契約 第◯条(完了報告及び検収)
1乙は、個別業務の完了後速やかに、作業の前後の写真を連絡ツールで甲に報告する。写真の送信に制限があるときは、短い動画で代えることができる。追加料金が生じた作業は、その状況が分かる写真等を添付する。
2甲は、業務の品質に異議があるときは、次の宿泊者のチェックインの時刻まで(その予定がないときは報告の日から○日以内)に、具体的に申し出る。
3前項の期限までに申出がないときは、当該個別業務は完了したものとみなす。
4乙の責めに帰すべき事由による不備は、乙が無償で再清掃する(時期は稼働の状況を考えて協議する)。乙の責めに帰すべき事由によらないときは、料金表により有償とする。
家主不在型の民泊の契約で置いた条です。検収の期限を「次のチェックインまで」としたのは、次のゲストが入った後では、汚れが清掃の不備によるものか次のゲストによるものか区別できなくなるからです。
新しく清掃の会社を立ち上げる依頼者のサービス紹介資料では、クレームはその箇所の写真を送ってもらい、清掃会社の不備と判断したら速やかに再清掃を手配する、ただし完了時の写真の報告と違う場合、経年劣化に起因する場合、害虫・害獣によるクレームは対象外、としていました。写真の報告は、ここでも「やった証拠」になります(写真報告と忘れ物)。
請負の場合、注文者は不適合を知った時から1年以内に通知しないと権利を失いますが(民法637条)、契約で検収の期限を置くと、この期間を短くする特約になります。事業者どうしの契約では一般に有効と考えられますが、短すぎる期限は争いのもとになるので、清掃の性質に合った期限を選びます。
スタッフに再清掃をお願いするとき
新しく清掃の会社を立ち上げる案件の提案書では、スタッフへの「清掃の不備のときの再対応」を、懲戒的な「やり直しの命令」と捉えられると指揮監督の徴表になり得る一方、契約不適合の責任の履行として構成することもできるとし、民法上の責任・善管注意義務の履行として構成して、フリーランス法の不当なやり直しの禁止(同法5条2項2号)とも整合させる方針を示しました。草案では次のように書いています。
- 個別の発注の内容や明示した仕様に適合しないときは、相当の期間を定めて是正(再対応を含む)を求められる。
- 是正は債務の本旨に従った履行を求めるもので、落ち度を問わず一方的に懲罰的な措置を講じるものではない。
- スタッフの責めによらない不適合のときは、是正に要した合理的な費用を請求できる。
一般の家庭のハウスクリーニングでは
個人事業のハウスクリーニング業者の規約と契約書では、不備は作業の完了日を含め数営業日以内に、具体的な内容を書面や電子メールで通知してもらい、事業者が自らの責めによる不備と合理的に判断したときは、再作業・修補・減額などの措置を講じる、という構成にしました。消費者を相手に通知の期間を区切る場合は、消費者の権利を一方的に制限する条項として無効とされないよう(消費者契約法10条)、期間の長さや起算点を検討します(ハウスクリーニングの利用規約)。
基準の対象外は「報告する、除去は協議」で止める
家主不在型の民泊の清掃を受ける契約で清掃基準の対象外を定めたとき、対象外を並べるだけでなく、見つけたら報告する義務を清掃会社の側に置きました。清掃会社が発注者として個人事業主に委託する契約でも、同じ報告の義務を置いています。報告の義務があることで、後から「なぜ言わなかったのか」と言われずに済み、同時に、除去その他の措置は「協議」とすることで、報告がそのまま除去の引受けにならないようにしています。
新しく清掃の会社を立ち上げる依頼者のサービス紹介資料でも、浴室などのウロコの除去、天井の拭き掃除、換気扇の埃の除去などを個別に対象外とする一方、ベッドパッドの汚れの確認や、設備の不備・汚損の報告は作業の対象に入れていました。「落とさないもの」と「見て伝えるもの」を分けて示す書き方です。
報告の範囲と、報告の中身
事務所の改訂例 ホテル清掃の報告と業務計画
報告の求め
受託者側のレビューでは、範囲・頻度に制限がなく事務の負担が増えること、是正の範囲が不明確で実質的に業務の方法を細かく指示する運用になり、指揮命令の関係に近くなるおそれがあることを指摘しました。
依頼主が毎日のように臨時の報告を求め、報告書を作る手間が委託料に見合わなくなる、という事態を防ぐ書き方です。業務計画についても、依頼主ができるのは「合理的な意見」を述べることで、清掃会社はそれを「尊重する」という関係にとどめたので、是正の求めの名目で業務の方法を細かく指示される形にはなりません。
建物管理の協力会社の契約の改訂では、完了のときに作業前・作業中・作業後の写真、点検の結果、使った材料などを報告させたうえで、過去の写真や他の物件の写真など実際の作業の状況と異なる資料を使うこと、実施していない業務を実施済みとして報告することを禁止しました。検査の期日を個別の契約で決めなかった場合の既定値(完了の通知から一定日数以内)を置き、検査や支払を済ませても、後から分かった不適合の責任は当然には免除されない、とも定めています。
清掃会社が多くの現場を回し、スタッフから写真で完了の報告を受ける場合、別の日の写真を使われて未清掃が発覚すると、品質と信用の両方が傷つきます。この禁止はスタッフとの契約に入れておく価値があります(清掃スタッフとの業務委託)。
やり直しを求められる要件と期間を書き分ける
同じ改訂では、一つの契約の中で、請負に当たる業務と準委任に当たる業務の是正の要件を書き分けました。
是正の要件の書き分け
是正の請求は、不適合を知った時から1年以内の通知に限り、さらに引渡し・完了の時から一定年数で区切りました(受注者に悪意・重大な過失がある場合を除く)。材料・指図による不適合の扱いと1年以内の通知は、民法の請負の定め(民法636条・637条)と同じ枠組みで、これに引渡し・完了からの年数の上限を加えた形です。
民泊清掃でも、日常のゲストの入替えの清掃(準委任)と、退去後・入居前の原状回復の清掃や特別清掃(請負的なもの)を同じ契約で受けるとき、この書き分けが参考になります。原状回復の清掃の仕上がりについて数か月後に再清掃を求められる、という事態は、期限の定めがないことから起きます。運営代行の契約(施設側からの依頼)のレビューでも、運営管理の契約は委任の範疇だが清掃・点検などの履行の義務を多く含む複合的な性質を持つとして、結果の責任の有無を契約書で明確にするよう指摘しています。
なお、個人事業のハウスクリーニング業者の規約では、不備を「明白かつ客観的な瑕疵、不具合、実施されるべき作業の未実施等」と定義し、主観的な好みの違いと区別できるようにしました。不備の通知を「具体的内容を書いた書面又は記録可能な電磁的方法」に限ったのは、電話の口頭のクレームで内容が特定されないまま再訪を求められる事態を避けるためです。
よくあるご質問
民泊清掃の契約は、請負と準委任のどちらにすべきですか?
毎回のゲストの入替えの清掃は、現地の作業・一次対応を含むため準委任とする例が多くあります。原状回復の清掃のように仕上がりを引き渡すものは請負になじみます。どちらでも、清掃の基準・完了の報告・検収・再清掃のルールを書いておくことが大切です。
清掃後のクレームは、いつまで受け付けなければなりませんか?
契約で検収の期限を決めておきます。民泊では「次のゲストのチェックインの時刻まで」とし、期限までに申出がなければ完了とみなす書き方が、責任の区別の面でも合理的です。
再清掃はいつも無料で行う必要がありますか?
清掃会社の責めによる不備だけを無償とし、それ以外(清掃の方法で落とせない汚れ、経年の劣化、次のゲストによる汚れなど)は有償とする、と契約に書いておけば区別できます。
清掃前からあった汚れについて責任を問われないためには?
営業開始前と初回の清掃後に施設内を撮影して基準の写真とし、経年の変化や清掃では落とせない汚れを基準の対象外にしておきます。毎回の作業の前後の写真も証拠になります。
スタッフに再清掃をお願いするとき、注意することはありますか?
懲戒的な命令ではなく、契約不適合の責任の履行として求める形にします。スタッフの責めによらない不適合なら費用を払うことも書き、フリーランス法の不当なやり直しの禁止に触れないようにします。
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